舞桜
いつだって気づけば君が視界の中に
だってその白い肌が
首筋が
吸い寄せるんだ
誘われる欲に抗う意志を
目を閉じると
「ねぇ、私のこと、見てたでしょう?」
君は風に舞う花びらの中
勝ち誇ったように笑ったようだった
聞こえなかったフリをして
僕は、ただひたすらに
舞い散る桜を感じようと目を開ける
君がその、口元の髪を
そっと人差し指でかき落としているのも
ーー そしてそれがどんなに美しくても
ヒラヒラと 目の前に舞い、揺らぐその長い髪
いつだって気づけば君を見てる
だってその黒い髪が
吸い寄せるんだ
誘われる視線に 見失ってしまいそうな僕を
萌ゆる緑が、眩しい真昼に
家族連れの楽しそうな声が
こんなに近くに溢れているのに
その白い肌が、その黒い髪が。
近いんだ
近すぎて、怖いんだ
チラリ、チラリ。
僕をのぞき込む君の
君のその濡れた瞳を
気を抜いて視線を合わせたら
「ほぅら、やっぱり見てたんじゃない。」
微笑んでのぞき込む君。
認めたら負けだ
ーー いや、認めなくても負けか
何を言ったらいいか
乾いた僕の口からは もう、声も出なかった
僕はもう一度、目を閉じた
美しい桜の花と
頬をなぞる君の冷たい息を
陽だまりの落とす
モザイク模様のアスファルトに
カシャン
踏みつけられた花びらの上
音を立てて落ちる銀縁の眼鏡
そのシュールな光景に フッ、と息が漏れた瞬間
足元にあった僕の影は、
もう、その場所には無かった
「 いらっしゃいませ 非現実の世界へ
こちらは 超現実世界です」