フィラデルフィアの夜に12
それは針金による花です。
種が弾丸の。
それは街角。
店先の骨董屋で動く影がありました。手紙を書いている様子。
でもそれは生きている者の影ではなく、歯車による人形でした。
ぜんまいが巻かれ意志無く動く少女が微かな明かりの下、眠たげな表情を浮かべ、インクの付いていない羽ペンをゆっくりゆっくり動かしています。
人気もなく、街角で、ただ動いていました。
毎日毎日ぜんまいは巻かれ動くも、今日はあまりにも多く巻いたのか未だ動き続けます。
インクのないペンで、長い物語でも書くかように。
静寂が、失われました。
火薬が細い筒の中で爆発する音が次々に鳴り響きます。
サイレンが鳴り響き、わめき、騒ぎ、泣き叫びます。
少女が眠たげなまま。
うめく声、最後の光を失う人が道々に溢れ、血生臭さがこみ上がってきます。
排水溝に次々に汚物が流れ込んでいきまあいた。
ゆっくりゆっくり、羽ペンが動きつつ。
夜を切り裂くように、音が轟きこだまします。
形容しようのない声が、怪物のごとく張り上げ、街が壊れていったのです。
長い物語でも書くかのように。
ひとつふたつみっつ。
音がしました。
音と声がようやく静まって少し経った頃に。
ボスボスバス、と。
羽ペンの動きが止まりました。
黒い機械油が、筆先に滴ります。
少女に穴が開き、そこから洩れています。
みっつ、少女に穴が穿たれました。
目の前の、惨劇の人物のひとつになりました。
花が。
日が昇り、朝、少女の体より、開かれた穴より。
みっつの花が。
少女の体から、針金の花が。
どれほど多くの針金が使われていたのか、弾丸の衝撃で針金がぐちゃぐちゃに編み込まれ、ラッパのような大きな花が咲いています。
しかも多様な素材と油の為に、色鮮やかに。
しかし、彼女の動きにそれほどの量の針金が、素材が、果たして必要だったのか。
そして偶然だったのか。
彼女の筆ペンの先。
「END BYE」とあったのは。
作品名:フィラデルフィアの夜に12 作家名:羽田恭