『もう食べられません! フーさん!』(われらの! ライダー!
(だけど折角フーさんが……鳩猟までやってくれてるんだぜ、黙って食えよ、少なくとも日本産の鳩なんだからさ……うわぁ、でも確かにグロいな)
(だろう? ムリだよ)
(いや、顔を見なけりゃいいんだ、見なけりゃな……うん、肉は締まってて味は悪くないぜ)
「美味いアルか?」
「え……ええ、鳩を食ったのは初めてで……」
「では人生初体験にカンペーアルよ、カンペー!」
「カ、カンペー……うっぷ……」
「次は麺アルが、ちょっと麺打ちの道具が手に入らなかったアル、餃子で良いアルか?」
「へ? 餃子が麺なんですか?」
「麺と言う漢字を良く見るアル、麦の面と書くアルな?」
「え? ああ、確かにそうですね」
「小麦粉を練って延ばしたものを麺と呼ぶアルよ、切ったり延ばしたりしなくても麺は麺アル、日本人、餃子をおかずに米飯食べる、アレ中国人が見たら可笑しいアルよ、餃子は麺だから主食アル」
「ああ、そうなんですか……これもフーさんの手作りで?」
「済まないアル、これは出来合いの冷凍食品ネ」
「日本産の?」
「本場直輸入アルよ、天津産アル」
「天津産って……なんかちょっと気になるんですが、メーカーを聞いてもよろしいですか?」
「え~と、天津フーズとなってるアル」
(おい……天津フーズって言ったら……)
(わかってるよ、例の毒餃子事件だろう?)
「何をごちゃごちゃ言ってるアルか?」
「あの~、その天津フーズなんですけどね……日本で食中毒事件を起こしたことがあるもんで……」
「ワタシそれ知らないアルな、何人死んだアルか?」
「え? いえ、死者は一人も」
「じゃあワタシが知らないのも無理ないアル」
「は?」
「中国じゃ三十五人死なないとニュースにならないアルよ」
「はぁ……三十五人ってのはまたやけに具体的な数字ですね」
「どういうわけかニュースで伝えられる死者数はいつも三十五人アル」
(俺、まだその三十五分の一にはなりたくないよ)
(しぃっ、聴こえるよ……誰だって餃子で死にたかないさ)
「まぁでも、無理にとは言わないアル、まだ封を切ってないからまた冷凍するアル」
「あのう、お気を悪くなさらず……」
「ダイジョウブ、ちょっとしか気を悪くしてないアル」
(ちょっとは気を悪くしてるんじゃねぇか……)
(お前が天津フーズがどうのこうの言うからだろ?)
(お前だって嫌がったクセに……)
「何をひそひそ話してるアルか……気分直しにカンペーするアルよ」
「え? またカンペーですか?」
(おい、もうムリだよ、目が回ってきた)
(俺もだけどさ、フーさんの機嫌を損ねるだろ? もう一杯だけ頑張れよ、俺も頑張るからさ)
(トホホホホ……)
「カンペー!」
「カ……カンペー……うっぷ……フーさんはお強いんですね」
「これくらいは飲めないと中国では人付き合いが出来ないアルよ」
「でも、俺達はもう限界で……」
「情けないアルな、まぁでも、ムリにとは言わないアル」
「へぇ……相済みませんことで……」
「まあ、良いアル、ワタシの飲む分が増えるアルからな、餃子と別に肉饅頭も用意したアル、饅頭食うヨロシ」
「その盛んに湯気の立ってる蒸篭の中ですか? うわぁ、でかいですね」
「昔、諸葛亮孔明が人身御供の代わりに作らせたのが饅頭の語源ね、だから人の頭くらいの大きさがあるのが本当アル」
(天津フーズ製じゃないだろうな?)
(バカ、そんなこと今更聴けるかよ……)
「今のは聴こえたアルよ、ダイジョウブ、それは北京で作られたものアルよ」
(やっぱり中国製なんだ……)
(しぃっ、もう何も言うな、黙って食え……ん?……)
(……これ……アレだよな……)
(この妙な歯ごたえ……確かに……)
(ダンボール……だよな……)
(多分な……)
(ダンボール入りでこのサイズだぜ……食いきれるか?)
「そのひそひそ話は不愉快アルよ、言いたいことははっきり言うヨロシ」
「いえ、決して……」
「聴こえてるアル、ダンボール肉まんの話ならアレはテレビ局の捏造よ、テレビ局がそう認めたアル」
(そのテレビ局も国営……)
(黙ってろって……)「違うんです、フーさん、饅頭が大きいんでお茶か何かあるといいなって……」
「ああ、そうアルか、こりゃ気づかなかったアルね、わかったヨ、今烏龍茶用意するアル」
「わがまま言ってすみません……あれ? フーさんの饅頭は小さいんですね」
「カロリー取り過ぎを医者にうるさく言われてるアル、だから日本製の小さな饅頭でガマンしてるアル」
(黙ってろよ……俺だってそっちのが良いとどれだけ言いたいことか……でも、ここはガマンのしどころだからな……)「あれ? フーさん、何をしてらっしゃるんですか?」
「お茶の葉を洗剤で洗ってるアルよ、何かおかしいか?」
「いえ、日本じゃあまりそういう事はしないもんで……本場じゃ烏龍茶はそうやって淹れるものなんですか?」
「別にそういうことではないアルよ、このお茶はワタシも飲むアルからね、残留農薬を洗い流しているだけアル」
「…………」
「…………」
「お前達、どうしたアルか?」
「……いえ、ちょっと……お茶も怖いかな……なんて……」
「何? お茶が怖い? ならば饅頭をもっと食うアル、それは饅頭を食い尽くしてから言う台詞アル」
「うわっ、こりゃヤブヘビだ」
「何? 蛇がいるアルか? 捕まえて蛇料理に……」
「いえ! もう蛇は充分です」
「どうしてアルか? まだ蛇料理は出していないアルよ」
「いえ、あなたがウワバミですから」
お後がよろしいようで……。
作品名:『もう食べられません! フーさん!』(われらの! ライダー! 作家名:ST