レイドリフト・ドラゴンメイド 第30話 召喚されて、され果て
その前に交差するのは、工業技術を意味する絵の長いハンマーと、国防力を意味する自動小銃。
この星で、1人だけが身につけることを許されたはずの徽章。
チェ連国旗を、そのままあしらった最高指導者の、書記長の証だった。
続く科学者は女性で、その頬はひどくやつれていた。
その口が、微妙に動いている。
「科学者たちの小声、分かるよ」
ドラゴンメイドにそう言われた。
さすがに耳がいい。
ワイバーンは聞きたいと答えた。
検出された声は。
『や、やっと解放された……』『魔王から解放された……』
「あいつら、やっと開放されたって言ってたわね。それに魔王。それが、あのへんな壁の正体? 」
ドラゴンメイドの疑問に、ワイバーンも首をひねった。
変な壁。
それはあのビルの正体であり、地下要塞の廃棄物から分かった。
「さまざまな異能力者を集め、彼らに並列演算させることで作られる、バイオコンピュータ。だったね。
でも、自分で入ったなら、出られないわけないのに。
それに、僕らが入った時には何もなかった」
考えても、答えはでない。
その時だ。
不意に、ワイバーンでもわかる環境の変化。
もっと漠然と、気配を感じたと言ってもいい、何かを感じた。
そして、ある疑問と結びついた。
「ね、ねえ。あの科学者たちの言葉って、山の向こうの三種族にも聞こえるのかな? 」
大聖堂の向こう。
山脈の雄大な姿が、うっすらとした朝焼けを浴びてぼんやりと現れる。
その上で、わずかに赤みを増した光が小さく見える。
キラキラ輝くそれが、いくつもいくつも天に登る。
山の向こうからの旭を浴びた、地中竜。
「聞こえたらしいね」
ドラゴンメイドが認めると、どよめきが彼女のまわりから広がる。
赤い光が、高山をまっすぐ降りてくる。
海中樹の結晶から漏れる日光のレーザーが邪魔な木々を焼き、なぎ倒しながらやって来る。
これも多数。
そして、天上人。
せっかちな朝日と、それに照らされた雲のように、山脈の向こうから湧き上がる。
朝焼けにそっくりだが、彼らが朝を人間にくれる訳がない。
むしろ奪う方だ。
「緊急事態発生! 」
どよめきの後を、ワイバーンの叫びが追った。
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第30話 召喚されて、され果て 作家名:リューガ