フィラデルフィアの夜に0
針金は太いものや細いもの、くすんだものや輝くものなど様々です。それらは全て物陰の男から一人でに出てくるもので、そして色々なものに意志があるかのようにからみ、結びついていきます。バイプに、ネジに、工具に、落ちていたものに。
それは不思議なオブジェとなりました。
男の目と心を楽しませる、花のように。
男は、もうすぐいなくなります。
針金のオブジェは男のために咲いていきます。花のように。
この世には注目されず、忘れされているものがたくさんあります。
男もそのひとつでした。貧しく苦しみ、助けが必要なときに、誰のめにも入ってなかったのです。
淋しく、ずっと淋しく道の上に生き、冷たい道に横たわり、最後は刻々と近づいていきます。
「美しいものが欲しい。自分にふさわしい、誰も見たことのないような美しいものが欲しい」
凍えるようなアスファルトの上でそう思います。辺りは汚いゴミばかりなのに、価値のないものなのに。
しゃらん
音がします。両手足から。針金が跳んだ音です。
それぞれの針金はがちりと周りのものにからみついていきます。
それは人の姿のようになりました。それは塔のようになりました。
次々に何の迷いもなく、ゴミに結びついていきます。
男が産み出していきます。
それらは男にとってどれも美しいものでした。
針金は止まりません。男はだんだんしぼんでいきました。
元々痩せこけていたのにさらに小さくなっていくのです。
男は幸せそうに縮んでいきました。
針金は次々に咲いていきました。
ずっと後のことです。
夜、自動車のライトが一瞬何かを照らしました。 青年はなんだろうと照らしたものに近づきました。
そこにはぼろぼろの服と多くの、人のような、塔のような、十字架のような、花のような、樹木のような、手のような、船のような、リングのような、寝台のような、様々なオブジェがあったのです。
数は千を超え、その一つ一つは青年の心を強く打ちました。
オブジェたちは多くの人に 知られ世界中で不思議な感動を与えます。
これらを作ったのは誰なのか、一体どうやって、どうして作ったのか街中を探しました。
でもわからないまま終わり、数多くのオブジェは今日もどこかで咲き続けているのでした。
作品名:フィラデルフィアの夜に0 作家名:羽田恭