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ロリコンと呼ばないで(掌編集~今月のイラスト~)

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 もうすぐさくらは僕だけのものになる。
 そう、さくらと僕は結婚する、来週結納を交わす予定なんだ。
 まあ、実際はとっくに独り占めしてるんだけどね。
 今日だって僕のために着物を着て来てくれた、僕が『桜の下で和服姿のさくらが見たいな』と言ったからなんだ。



 さくらに初めて会った時の事は今でも鮮明に覚えている。
 僕は中学の教師になって2年目だった、初めて担任を持った時に入学して来たのがさくらだった。
 今でもわりと童顔の部類だけど、中学に入学して来た時のさくらはまだまだ幼かった。
 今でもわりと小柄な部類だけど、中学に入学して来た時のさくらはもっと小さかった。
 でも、その人の心を和ませるような屈託のない笑顔は、舞い散る桜の花弁に彩られて輝いて見えたんだ。

 断って置くが、僕はロリコンじゃないし、教え子に手を出すほど分別がない男でもない。
 さくらのことだって、可愛いなとは思っていたが、それは女性としてとしてじゃなくて、子供として、女の子として可愛いと思っていただけ……の筈だった。
 でも、まだ三分咲きの桜の中、さくらが中学を卒業して行く時、ちょっと胸が苦しくなるのを感じた……親心のようなものだと思っていたが、恋心も混じっていたのに気づいたのはその時だった。

 

 さくらと再会したのはその三年後、やはりこのお寺でだった。
「先生?」と声をかけられ、振り向くとそこには少し成長したさくらの姿、少し大人びてはいたが屈託のない笑顔はそのままに輝いていた、僕はあんまり神仏を信じない方だけど、その時ばかりは仏様の導きかと思ったね。
 高校を卒業したさくら、教え子には違いないが、付き合うことになったとしてももう何の問題もない、僕はなんとかさくらとステディな関係を築きたいと願ってお茶に誘ったのだが、仏様もそうそう良い顔ばかりはしてくれない、さくらは明日には東京に発つのだと言った、東京の女子大に進学し、学生寮に入るのだと。
 要は『チャンスだけは与えてやったぞ、後は自分で頑張れ』、そういうことなのだと悟った。

 東京のさくらには毎日のようにメールを送ったし、ちょくちょく会いにも行った。
 長期休暇で地元に戻ってくれば、こちらでもデートした。
 感触は悪くないんだ、感触は。
 さくらは僕とのデートを楽しんでくれてるみたいだし、メールにもきちんと返答してくれる、でも、もうひとつ踏み込めていない感じは付きまとった。
 まあ、理解できないでもない。
 ニ~三時間もあれば行ける距離だとしても、やはり遠距離交際である事は否めないし、高校までを田舎で育った娘が東京へ出れば楽しい事だってたくさんあるだろう、何も田舎にべったり張り付いている僕と付き合わなくたって良いのかもしれない。
 それでも切れずにいてくれるのは脈ありと考えても良いのかも知れないが、脈あり止まりであって、本命には中々なれないもどかしさがあった……まあ、他の男の影は全然見えないのが救いだったけどね。



 一昨年の暮れのことだ。
 さくらは東京でクリスマスを過ごしてから帰省して来た。
 ホント、微妙だろ? クリスマスを共に過ごす関係までは行っていない、でもクリスマスが終わればすぐに帰省してきて僕と会ってくれる、好きな男がいるようには思えないんだ、でも、東京でのクリスマスパーティの方が僕より優先……ずっとそんな感じだった。

「う~ん、こっちだったらホワイトクリスマスだったんだね、東京じゃクリスマスに雪が降ることなんか滅多にないって、東京育ちの友達が言ってた」
 さくらは屈託なくそう言った。
 確かにそう遠く離れているわけではないのだが、こちらでは年末にも一度や二度は雪が降る、そしてクリスマスに降った雪はまだ道路脇や中央分離帯に残り、路面を滑りやすくしていたんだ。
 
 どちらも片側二車線の道路が交わる十字路。
 信号が青になるのを見越したようにスピードを緩めずに交差点を左折しようとしたセダン、そして信号が赤に変わった瞬間に強引に直進して来たトラック。
 ドカンと大きな音を聴いた時は既にセダンはスピンしながらこっちに突っ込んで来ていた。
 もちろん、とっさにさくらを抱きかかえるようにして避けようと思った、しかし、「きゃっ!」と言う短い叫び声と共に、さくらは頭を抱えて身を屈めてしまったんだ。
 今思い返しても不思議なんだけど、あの瞬間、やけに冷静に頭が回った。
 抱き起こしている余裕はない、ならばこうするしかない、と判断してさくらを突き飛ばした、尻餅は当然つくだろうけど、それで済む筈だ、その後で自分は飛びのこうと……でも、間に合わないのはすぐにわかった、手を前に突き出して衝突の衝撃を和らげるのが精一杯、僕はセダンのトランク部分に跳ね飛ばされて、後ろにあった喫茶店の窓ガラスを突き破って店内に投げ出され、気を失った。
 
 後で考えてみれば、後ろがコンクリートの壁でなくて助かった、壁だったら車に挟まれて潰されていただろう、それと喫茶店の窓が木製だったのも幸いした、木の桟を突き破る時に投げ出される勢いは弱まったからね、もっとも、ガラスが派手に割れて首筋に結構深い傷を負ったけどね。
 
 気がついたとき、僕は病院のベッドの上、そして隣の簡易ベッドにはさくらが横たわっていた。
「さくら……大丈夫? 怪我は?」
 それが 僕の第一声だったらしい、あんまり良く覚えていないけど。
 それを聞いたさくらはナースコールを押し、すぐに看護士が、続いて医師がやってきて、ようやくさくらに怪我はなくて、僕に輸血してくれるために横たわっていたんだとわかったんだ。
 そう、さくらと僕は血が通うビニールのパイプで繋がっていたんだ、首筋の傷から随分と出血したらしくてね、でも、さくらの血が僕に流れ込んで来るのを感じたら、なんだか嬉しかったのを覚えている。

 その日を境に僕らの関係は大きく前進した、まあ、一応命の恩人と言うわけだしね。
 わが身を省みずに守ってくれた、とさくらは言うんだけど、自分としたら、とっさにそういう行動が取れたのが嬉しくもあるんだけどね……。

 大学を卒業したさくらは地元で小学校の教師になると決めて、こっちに戻って来た。
 そう、僕と結婚してこっちで暮らす事を選んでくれたんだ。

 さくらの花の下に佇むさくらを見ると、今でも十年前の彼女を思い出す、初めて会った時、なんとも言えない暖かい気持ちになった事をね。
 その気持ちは今でも変わらない、さくらがずっと大人になったことを除いてはね。
 え? 今でも充分に幼いって? ははは、それじゃ僕がロリコンみたいじゃないか……いや、さくらに関してだけ言えばあながち外れとも言えないかな……いつか僕達の間に子供が出来て、それがさくらに良く似た女の子だったら……創造しただけで嬉しくなってしまうからね。

(終)