非力コンテスト
「来たれ非力自慢! 第一回非力コンテスト開催!」
一見逆に張っただけだと思われるこのコンテストの詳細は、次の通りだった。
趣旨は、「体力を顧みず知性を磨き上げることに自身の存在意義を賭している男性職業人諸氏に、我こそは最も体力を顧みていないと自慢(自虐)していただき、引いて広く皆様に体力について考える機会にしていただく」。
参加資格は、「デスクワーカー、非体育会系大学生その他それらに準ずる男性」。
競技内容としては、学生時代のスポーツテストに類似したものが書かれ、更に優勝者にはスポンサーである大手スポーツクラブより一年間無料の特別会員証・大手スポーツ用品メーカーより最高級ランニングシューズを贈呈、また故意に力を抜く行為が発覚すれば即失格にする旨などが書かれており、戸惑った反応が大勢を占めたが、果たして開催日の朝を迎えると、開催場所である都内某区のグラウンドに、(不)名誉を求める数十名の戦士が集結した。
整列した参加者のうちにいたのは、例えば、腕立て伏せをしようにも一度ひじを曲げたらもはや絶対に伸ばせない、凄腕外科医師のA氏(三十一)。前屈させられると女の子のような悲鳴を上げる、鬼検事のB氏(三十二)。小学一年生の甥との本気の相撲で瞬殺された、官僚のC氏(三十五)。あらゆるビンのふたを開ける気力すら失った、天才大学教授のD氏(三十九)……などなど、みなコンテストに備えて一切体を鍛えることが無かった、いずれ劣らぬ猛者ぞろい。たった一フロアの移動でもエレベーターしか使いたくない予備校講師のE氏(二十六)などは、もちろん体は一秒も鍛えなかったが、人気稼業に就いているだけあって、好感を狙える照れ笑いの仕方を鏡の前で研究してきたという、本気のほどをうかがせる経緯を持っていた。
さて、そういう一群を前に進行役と思しきスタッフが登壇し、いよいよ開会……と思われたところ、そのスタッフはこう告げた。
「それでは、コンテストの結果を発表致します!」
会場にどよめきが起こる中、彼は続けた。
「申し訳ございませんが、実は告知で書かせていただいた競技内容は、一次プログラムで決着しなかった場合の二次プログラムです。皆様は、こちらの会場まで無事に到着できる体力の持ち主であることを、既に立派に証明なさいました。結果優勝者ですが、会場に来る途中に点滅した信号で走ろうとしたためにアキレス腱を断裂させて救急車で運ばれた、システムエンジニアのFさん二十七歳。更に、そのFさんを抱え上げようとしてぎっくり腰をやり一緒に倒れていたご友人、作家のGさん二十七歳を同順位で優勝と致します! それでは、優勝者おふたかたのメッセージを、現在いらっしゃる病院から述べていただきましょう……」
【完】