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ワタリドリ
ワタリドリ
novelistID. 54908
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それでも太陽は赤く染まる!第12回「夕暮れの散歩道!」

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第12回 「夕暮れの散歩道!」

母親と大喧嘩をして家を飛び出したひとしは、ちゃっかり頼まれた買い物のエノキダケだけはスーパーによって買ったものの、けっきょくそろばんには行く気にはなれずに、無意識にそのまま自転車でテレビ塔の見える名古屋の中心の栄の方までペダルを走らせて行った。
ビルの横を行きかう人々、社会人や学生たちにすれ違いながら、ひとしは頭の中がまるで漂流したようにぶらぶらとあてもなく沢山の街並みを眺めるように進んでゆく。好きなアニメのCDとか熱帯魚ショップなども途中で通りかかって、寄ろうかとも思ったが、いまいち店に入る気がのらなくて横目にそのまま通りすぎてしまう。
いつのまにか茜色のキャンバスが紺色の絵の具でしんみりと彩られると、道路を行きかう車や街並みにあかりが灯るようにあちこちでネオンが反射して目の前に広がる風景が変わる。
ちょうど目の前をよぎる真っすぐと天に向かって堂々とそびえたっていたテレビ塔にも、ほんのりとやさしいオレンジ色の灯りがともりはじめていた。
通りすがりのビルにつけられている時計の針はいつのまにか7時を回っていた。穏やかになびく風のにおいが夜風の香りに変わる瞬間をひとしは五感で敏感に感じ取ったせいか、テレビ塔を背後にようやく自転車の進む方向を家のほうかくへと変え始めていた。
街のあちこちに彩られた夜桜たちが道行く沢山の街灯に照らされるように鮮やかなピンク色の花びらをなびかせていた。
まるで今日1日に心に積もった、たくさんの疲れを桜の花びらたちが癒してくれているように・・・。
立ちこぎで並木道を走らせていたひとしの表情には、いつのまにか穏やかで心地よい笑みが口元に浮かんでいた。