まゆ姫様ご乱心
桂城主の娘、まゆ姫様はみめ麗しき美貌の乙女でございましたが、日々ひどい便秘に悩まされておりました。
そんなある日のこと、彼女のもとへ守役の梶部ぽん左衛門が息せき切って駆け込んできたのでございます。
「姫様、姫様っ!」
「なんじゃ、騒々しい」
「喜んでくだされ、ついに便秘の特効薬を手に入れましたぞ」
「なに、それはまことか?」
「これにございます」
見るとそれは紫色の葉脈も毒々しい、一把の薬草でございました。
「……毒ではないのか?」
「いえ、これを見つけた狩人の話によりますと、吉野山に巣食う人食い大蛇がやはりひどい便秘に苦しんでおりましたが、この薬草を舐めたとたん、ポッコリお腹が嘘のように引っ込んだそうでございます」
「ふむ、ではわらわも試してみよう、さっそく用意いたせ」
「ははっ」
ぽん左衛門が煎じたその薬草を、姫様は白湯といっしょにおちょぼ口へ流し込みました。するとどうでしょう、彼女の顔がみるみる青ざめてゆくのでございます。
「ああ、お下り様が……。爺、着物のすそを持て、かわやへ急ぐのじゃ」
「ははっ」
そのまま彼女は、あわてて雪隠の木戸をくぐりました。ところが便所へ入ったきり、ウンともプーとも言ってきません。さすがに心配になったぽん左衛門は、侍女を伴いこっそり覗いてみることにしたのでございます。
「……姫様?」
中を覗いて、二人は仰天しました。
「ややっ、これは」
「きゃあ、姫様!」
そこには人の形をしたう◯このかたまりが、着物をすそをたくし上げじーっとしゃがみ込んでいたのでございます。
そうです、あの薬草はけっして便秘の特効薬などではなく……。