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藍城 舞美
藍城 舞美
novelistID. 58207
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ある過去の日の光景

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 その日、フィルのバンド「LOVE BRAVE」が全員で催眠術ごっこをした。まず、ヴォーカルのフィルが、ギターのティムに催眠術をかけた。
「僕のほう見て、左手出して…。ティム、君は今から左手が全く動かなくなる…」
 すると、妙なことが起こった。
「ティム、まばたきすらしてないよ」
 ベースのジミーが言った。続けて、ギターのヒューゴも言った。
「マネキンみたいだ」

 少しあと、彼は催眠術を解かれた。
「どうかな?」
「いや、まだ指先が少し…」
 一同はしばらく言葉を失ったが、フィルが苦笑いした。


 次に、ヒューゴがフィルに催眠術をかけた。
「俺を見ろ。フィル、おまえはだんだん足の力が抜けていく…」
「うわ、何か立ってらんな…」
 そう言った直後、ティムが派手に転倒した。
「おまえにはかけてないよぉ〜」
 ジミーが笑いながら言い放った。


 今度は、ジミーがヒューゴに催眠術をかけた。
「よ〜し、こっち向いて。ヒューゴ、君は今からヨガのポーズをしたくなる…」
 しかし、ヒューゴはジミーと目線を合わせているにもかかわらず、背中を少し丸めて立っているだけだった。メンバーは首をかしげた。
「ね、ヒューゴ、こっちの目ぇ見てよ」
 ヒューゴはジミーの言うとおりにしたが、数秒間見つめたあと、壁のほうに移動し、そこにだらしなく寄りかかった。その様子を見て、フィルがつぶやいた。
「催眠術かからない人、初めて見た…」
 それと同時に、笑えることが起こった。ティムが右ひざを曲げて右足の裏を左ひざの横に付け、両腕を上げて頭上で手のひらを合わせた、ヨガでよくある「木のポーズ」を取ったのだ。ほかのメンバーは笑い出した。
「だから、おまえにはかけてないって!」
 またもジミーの言葉が飛び、なんちゃって催眠術を解いた。


 最後に、ジミーから提案があった。
「じゃあさ、今度はティムからこっちにかけてよ」
 言われたほうは、快諾した。
「俺と目を合わせて…。ジミー、おまえはだんだん全身がかゆくなる…」
 しかし、ジミーは、ティムを見てニヤニヤ笑うだけだった。そのとき、またも珍事が起こった。
「あっ、何か俺のほうがかゆくなってきた…。やばい」
 あろうことか、術をかけたティム本人が首や腕をかきだしたのだ。これにはジミーはおろか、フィルもヒューゴも爆笑した。

「どんだけ催眠術に弱いんだ、こいつは!」
 ジミーがツッコミをかますと、ゲラゲラ笑い出したのだった。
作品名:ある過去の日の光景 作家名:藍城 舞美