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daima
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novelistID. 61590
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やっこの凧兵衛

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オイラはやっこの凧兵衛。しがない凧さんよ。一年に一度だけ押入の奥から外の世界へと出され、大空を舞うことができるんでぇ。

お正月の、それもお天道さんに恵まれた日でないといけねぇ。まぁオイラは晴れ男なもんで、一年たりとも休んだことはないがね。

なもんで、オイラをこさえてくれた坊主の顔をおがむことができるのも、一年に一度だけというわけだ。


「こうちゃん! その凧はもう捨てなさいって、何べん同じ事言わせるの!」

「いやだよ、まだまだ飛ばせるもんね!」


おっと、また坊主がお袋さんに 今年も同じこと言われてらぁ。オイラが言うのもなんだが、めげないねえ。

でも、とくに今年は雪もない絶好の凧上げ日和ときてる。思いっきり高く上げてくれよ、期待してるぜ。

それにしても、一年でまた一段と大きくなったじゃねえか。あの可愛いかった手のひらがほれ、指を伸ばせば、もうオイラの顔ぐらいあるぜ。


「よし、凧兵衛行こう!」


はいよ! 待ってました。でも、もうちょっとだけ優しくかかえてくれよ、こちとら体が紙なんだからよ。

まして凧年齢で言やぁーもういい歳だぜ。そう言えば、肩の竹ヒゴがきしみやがらぁ。


「よーし、ここがいいかなぁ、それ!」


あぁーあ、ダメだダメだ、こんな風じゃあオイラは上がんねぇよ。

おーととっと、おっとっと。 お? お? 痛てて……。見ろ言わんこっちゃねぇ、落っこっちまった。

何だか尻のあたりがスースーしやがる。あれ? ちきしょーめぇ、穴ボコひとつ空いてるじゃねえか。

おいおい坊主、まさかポケットから出したのは絆創膏かい? まぁいいや、ありがとよ。


それから……それからな……。


実はオイラ、去年気がついちまったんだがよ。その糸巻きも、もうこすれちまって所々ほつれてるんだぜ。

オイラがその手とつながっていられんのも、そろそろ終わりなのかもしれねぇな。

もっともっと坊主がでっかくなんの 見ていてえなぁ。

まぁでも、ものは考えようって言うじゃねえか。

糸がプッツリいった後によ、この広い広い大空を 自由に翔けてみるってのも乙なもんかもしれねぇよ。


「よーし今度こそ。まだまだ、まだまだ…… 今だぁーー!」


そうそう、そうだ、この風だよ この風。おぉー いーい気持ちだぁー。

ほへぇーたまげた本当かい、走るのもずいぶん早くなったねぇー。その駆けっぷりなら、オイラもたぁーんと高く上がれらぁ。


グングングングン、ドンドンドンドンな。


お、カラスのカー公、明けましておめでとさん! あい変わらず、しんきくせぇ顔してやがんなぁーおい。

ん? ちょっと待てよ、下で何か揉めてやがんな。どうしたい坊主?


「邪魔なんだよ、もっとあっちで飛ばせよー」

「ケンちゃんが後から来たんだろ? 向こうで飛ばせばいいじゃんか」


なるほどな、さっきからオイラの周りをチョロチョロしてる奴がいると思ったら、そういうことかい。

まったく、飛びにくいったらありゃしねぇ。この凧兵衛さんにケンカを売ろうって物好きな野郎は、どこのどいつだい。

大きなギョロ目に……さんかく姿?

ははーん思い出したぜ。去年コテンパンにしてやった、意地悪ケン坊のゲイラカイトだな。

まだまだビニールとプラスチックでできた若造には負けてらんないよ。

でも坊主、あんまりムキになって走っちゃ危ねぇぜ。ダメだダメだ、 後ろに気をつけな!

あ!!


「う! 痛いー 痛いよー!」


こんちくしょー言わんこっちゃねー、転げたひょうしに頭を打ち付けやがった!

大丈夫かい坊主? 泣いてるってことは 大ごとにはならねぇよな。なぁ、そうだよな?

ええい仕方ねぇ、やいカー公! いやいやウソです。カー様、おカラス大明神様! そこのほつれてる糸をよ、コツコツコツっとかみ切っちゃくれねぇかい。

そうそう、よーしよし、これで自由の身だい。なるほど、風の向くまま気の向くままってのは、いいもんだなぁ。カー公、お前が羨ましいぜ。


ふんわりプカプカ、すいすいすいーってか。


おっと、そろそろこうしちゃぁーいられねぇ。さぁカー公、これが正真正銘このやっこの凧兵衛最後のお願いだ。

その立派なクチバシでよ、オイラの腹の真ん中を食い破ってくれよ。

下に坊主のお袋さんが洗濯物を干してるの見えんだろ? あそこにオイラが落っこちればよ、坊主に何かあったに違いねぇって血相変えて飛び出してくはずだぜ。

ただし、この尻だけは勘弁してくれ。坊主がさっき貼ってくれた大事な大事な絆創膏があるからよ。

さぁーさぁー、遠慮はいらねぇー! ズバッといってくんな!


「カーーー!!」

 
     
        * * * * * * * * * * * * * 




「あら何かしら? ……これは! こうちゃんのやっこ凧!」


お袋さん、後は頼んだぜ。オイラ本当は知ってんだ……。

坊主がオイラを押入にほっぽり出した後によ、また来年も使えるようにって綺麗に包み直してくれてたのは、お袋さんだったってね。

今日までずっとずっと、ありがとよ……。



《了》
作品名:やっこの凧兵衛 作家名:daima