七夕祭り?
いつもの喫茶店で、名倉君は切り出しました。
「─ 笹本神社に行かない?」
テーブルの向かい側に座る有希子さんの表情が変わります。
「もしかして…七夕祭り?」
肯定した名倉君に、有希子さんは呟きました。
「…だ、駄目」
眉をしかめた名倉君に、気がつく有希子さん。
「あ! 駄目なのは…デートじゃないから。」
「…」
「駄目なのは、七夕祭り! 笹本神社の」
「?」
自分を凝視する名倉君から、有希子さんは目を逸らします。
「は…母親の遺言なの」
「さっき 挨拶したよね? ユッコさんのお母さんと」
「か…家訓で、禁止されてるの。江戸時代から……」
「あの祭りが始まったの、平成からだけど?」
紅茶のカップを弄び始めた有希子さんに、名倉君は尋ねました。
「…で、本当の理由は?」
有希子さんは、上目遣いになります。
「…ゃうんだよ」
「?」
「あの神社の七夕祭りに行った2人は…別れちゃうんだよ!?」
吹き出すのを我慢しているらしい名倉君に、有希子さんは唇を尖らせました。
「─ 何が可笑しいの!!」
有希子さんの剣幕に、名倉君は表情を引き締めます。
「ジンクスみたいなものは、あんまり真に受けない方が良いと思うな。ユッコさん」
「…でもぉ。。。」
「そう言うのが正しければ…2人は こうして話をしてないから。」
「?」
「今年、一緒に初詣に行ったでしょ?」
頷いた有希子さんに顔を寄せようとして、名倉君は身を乗り出しました。
「…初詣に笹本神社に行った2人は……2月までに別れるって言うジンクス、あるって知ってた?」
意外な事実を聞かされた有希子さんの目が、大きく見開かれます。
腰を浮かしてた名倉君は、椅子に座り直しました。
「縁結びの神様は…今繋がってる縁が正しい縁でなければ、一旦切ってから、正しい相手と結び直すって言うから…」
「…」
「結局、続く縁は続くし…続かない縁は続かないって事だよ。」
有希子さんは、無言で口を尖らせます。
名倉君は、笑顔で確認しました。
「笹本神社の七夕祭り、どうする?」
「行く。。。」
唇を尖らせ続ける有希子さん。
名倉君は、楽しそうに言いました。
「─ 今日のケーキは…ご馳走するから」
「慰め? 機嫌取り?」
「『別れちゃうんだよ!?』への、お礼。」
緩みそうな唇を、有希子さんは 何とか尖らせ続けます。
「…だったら、ご馳走されて、あげる──」