小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

旅立ちの時

INDEX|1ページ/1ページ|

 
三月半ばの、週末。
 幼い息子の手を引きながら、父は言った。
「春は、旅立ちの時だ」
 公園に、卒業式を終えてきたところだと思しき、黒い筒を握った中学生たちがいた。
「あのお兄さんお姉さんたちがあの服を着るのも、今日が最後なんだよ」
「そうなの?」
 幼い息子の問いに、父は答えた。
「あのお兄さんたちお姉さんたちは、これからもっと上の学校で勉強したり、お父さんみたいに、会社で働いたりするんだ」
 公園を抜けると、堤防に、草を食む者たちがいた。
「カモさんがいっぱい!」
「そうだね。ところで、このカモたちもああやって一生懸命食べて力をつけて、近々ここを飛び立つんだよ」
「どこへ行くの?」
 幼い息子の問いに、父は答えた。
「北へ向かって、ずうっと、ずうっと遠いところだよ。海の向こうの、外国まで飛んでくんだ」
 堤防を歩くと、黄色い花が咲いていた。
「たんぽぽも、そのうちに、白いふわふわの綿毛を付ける。飛ぶやつは、十キロぐらいは飛ぶそうだ」
「それってどれぐらい?」
 幼い息子の問いに、父は答えた。
「そうだなあ……うちから動物園ぐらいだな」
「すごい! そんなに遠くまで行くんだ!」
 父は、その勇躍を思い描きながら、我が息子を見つめて言った。
「おまえにも、旅立ちの時が必ず来る」

 そして三十年後、たんぽぽの綿毛が飛び立ったかのように、かつての少年の頭は禿げた。

【完】
作品名:旅立ちの時 作家名:Dewdrop