フィラデルフィアの夜に9
街角、道路、壁、柱、側溝の網、線路、フェンス、空き地、窓枠、街路樹。
その他、たくさんの場所に絡みつけられて。
誰も見る事のないまま、絡みつけられて。
夜に、人影。
落ちている針金。
気付かれる事もなく、曲げていき、よくわからない物を作り出す。
そして、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
近くの、また別な所で。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
ここは多い。
すぐ隣。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
その上。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
壊れた窓。その中。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
残されてしまっている、者。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
名前を。筆記体の要領で。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
死んでしまったものの。
曲げて、掲げて、飾り付けて。絡み巻き付け。
名前が、知られる事も無く街々に表されます。
誰も知らない死んだ人々の。
度重なる争いで、忘れ去られたままの名前が。
静かに、あります。
一度気付けば、次々に存在します。
なくならないように絡みつけられた、名前が。
夜に、一つの人影が、名前を残していきました。
朝、昼、明るくなり人々が行き交います。
誰も気付かないまま。針金に、名前に、人がなくなった事に。
人影が、残そうとした事さえ。
ただ、小さな目が、それを見つけました。
次々に見つけ、あまりにも次々に見つけてしまい、本当に本当にたくさん見つけてしまい、ここを去って行きました。
作品名:フィラデルフィアの夜に9 作家名:羽田恭