SPLICE ~SIN<前編>
<ハマザから>
緑深く、森に溶け込むかのように存在する翼人の村。
少し羨ましそうに、少し懐かしそうにそこに住む人々の背にある翼を見ていたバーカンティンだったが、スプライスの探し人に関する意外な情報には怪訝に顔をしかめた。
もちろんスプライスもソレを聞いて驚いた。
スプライスが約50年前にこの村で世話になった姉弟。
まだ生存しているのならば一目会いたいと、無事に自分は目的を果たせたと伝えたくて、または自分が求めていた人を会わせたくて『天空と大海の大陸』でも内陸部にある村まで遠路足を運んできた。
当時を知る人がどれくらい村にいるのかと心配だったが予想以上には多かった。
そのことは嬉しかったのだが、例の姉弟のことを聞くと村の人は表情を曇らせる。
「スプライス様が帰られた後、一年経っていなかったと思います」
そう始まった。
「ある日突然カティサークが姿を消したんです」
カティサークが姿を消して、村人総出で近隣を捜索したが見つからなかった。
禁域も探したが見つからなかった。
姉のヴィラローカがもっとも必死に探したというか痕跡のかけらも見つけられなかったという。
しかし数日後その姉も姿を消した。
「弟の行き先が分かった」
と置手紙を残して。
「その姉弟が使っていた家は書庫として管理人が住んでいますよ」
ソレは至極納得がいったと同時に残っていることが嬉しかった。
「『カティサーク』というのはこの村から出ることが出来なかったんだろ?」
「……離れれば離れるほど生体機能が失われていくって言ってた」
数週間ほどすごした家の前に立って、その家を見上げる。
相変わらず他の家と比べて低い。
表の人の気配に気づいたのか、管理人であろう人物が現れた。
「村長の許可はいただいてきました。良いですか?」
認(したた)めて貰った紹介状を差し出す。
管理人は一読して驚いたようにスプライスを見ると
「どうぞ、お好きなだけ」
懐かしい入り口の奥を示した。
匂いが違うような気はしたが、家のつくりは全く変わっていなかった。
その家にある本は以前来た時に有ったものが大半だった
思ったより劣化していないのは『書庫』としての役目を持たせたために、そう室内環境を保ったからだろうか。
少し本が増えているのはあの後増やしたのか、その後この家の現在の役割の為に追加されたものなのか。
あまり書物を必要とする文化が無い翼人の村だと思うと不思議な光景でもあった。
「一番奥の部屋だけ書庫ではないです」
示されたのはヴィラローカの部屋だった。
「見てもいいですか?」
懐かしさに家の中を見回してしまうスプライスが、ふとたずねる。
バーカンティンはスプライスの様子を見つつ無言だった。
まだこの土地の言葉をしっかりと話せないので、言葉を口にすれば何かぼろが出そうで…突っ込まれると色々厄介だ。スプライスとの関係を問われれば真実は面倒だったから、見た目から『神官と従者』くらいの感覚で見てもらえればと考えて。
「どうぞ」
ヴィラローカが怪我をしていた数日間はよく入った部屋。
この村の人々が普段は使用しないような形状の武具や服が沢山あったことを思い出す。
ドアを開けるとベッドなどは片付けられていたがやはり武器が陳列されていた。
それらは以前も部屋にあるのは見たが、実際に持っていたり使っていたりした姿を見たものは少ない。
そして当時主に使用していた槍がヴィラローカには有ったが…それは無いようだった。
そんなスプライスの様子を見て管理人が
「私は少し出かけてきます。ゆっくり見て行って下さい。今日はこちらにお泊りとのことですが良いですか?」
そう、村長に書いてもらった。
「はい、宜しくお願いします」
管理人が玄関先から羽ばたいて行く音がするまでそこで二人しでジッと待機する。
意味があってのことではない。
なんとなく、二人きりになったことをはっきりとしておきたかったからだろう。
羽ばたき音も消えたところでバーカンティンが息をつく。
「知識が中途半端な状態ってのは一番やっかいだな」
前世の記憶が戻りきっていないというよりも、その使用方法に手をこまねいている現状では外に対して何もリアクションをしないのが良いというのがバーカンティンの考えだったが、自己顕示欲のある現生では黙っているというのは辛いらしい。
前世で「演じていた」一の人格がそのまま現生での性格のようだ。
スプライスはどれであってもかまわないのだが、確かに一番付き合いやすい性格でもあるし形成しやすい性格でもあったのかもしれない。
「さて、手がかりが無いか探すか?」
小さい体で無防備に大きく伸びをするさまがスプライスには可愛く映る。
前世では全て計算された動作だったが、現生ではそうでもないようだから素直に可愛い。
本をあさっても参考になりそうなものの取捨選択自体が大変だった。
どれが関係あってどれが関係ないのか、それを振り分ける参考の情報に欠如している。
そもそも、参考になりそうな情報があるのか無いのかも分からない。
「おい、スプライス。あいつ呼んで来いよ」
さすがのバーカンティンでもこの家にある本を全て読むのは時間がかかる。
一昼夜費やしたところで音を上げた。
「探し人といえばアイツだろ?」
この場合ほぼ犬扱いだ…
この家に残るであろう彼らの何らかの形跡をインプットしてトレースさせる気だ。
そうは思ってもスプライスも同意だった。
切が無い状態で情報の正誤もわからないまま次に行こうとしても、正しい情報を探すところから始めなければいけない。
50年も前のことを調べるのはこの状態では難しすぎる。
数日後「使神官の間」より直接扉を通ってつれてこられたのはタ・ブレースだった。
その昔トレースの魔法を特別修行しただけあって『魔法使い』として使用できる魔法の中でも得意でかつ強力な力を発揮できる。
「ま、いいけどね」
ブレース自身は一度会ったことの有る姉弟だからバーカンティンが思っているよりも安易にその痕跡を探すことは出来るとのことだった。
「死んでてもどこへ行ったか分かるか?」
スプライスには分からないようにこっそりバーカンティンがたずねる。
「その人の持ち物や、死んでいても肉体の一部、例えば骨とかだけでも残っていれば分かると思うよ…?」
答えるが、あまりバーカンティンを直視しようとはしない。
多少落ち着きの無さも感じる。
理由は安易に想像ついた。
使神官の扉を使ってきたためにブリガンティンはつれてきていない。
バーカンティンの一卵性双生児の弟であり、ブレースの離れがたい恋人。
そのためだろう。
「ブレース」
コレが一番良いだろう、とバーカンティンがニッコリ笑いかける。
「がんばって」
いつもは無意識にかブリガンティンと違う行動や仕草をするが、ちょっと気を回せば同じ外見だから恋人だって一瞬見間違うはずだ。
そっと手をとって握ると、サッとブレースの頬に朱が走ったのをみて笑いがこみ上げてきそうだった。
ブレースが来るまでの間もバーカンティンはこの家の本を漁っていた。
ブレースがトレースしやすいようにスプライスが状況を説明し使用できそうなものを示している間も手近に有る本を取っては眺めていた。
緑深く、森に溶け込むかのように存在する翼人の村。
少し羨ましそうに、少し懐かしそうにそこに住む人々の背にある翼を見ていたバーカンティンだったが、スプライスの探し人に関する意外な情報には怪訝に顔をしかめた。
もちろんスプライスもソレを聞いて驚いた。
スプライスが約50年前にこの村で世話になった姉弟。
まだ生存しているのならば一目会いたいと、無事に自分は目的を果たせたと伝えたくて、または自分が求めていた人を会わせたくて『天空と大海の大陸』でも内陸部にある村まで遠路足を運んできた。
当時を知る人がどれくらい村にいるのかと心配だったが予想以上には多かった。
そのことは嬉しかったのだが、例の姉弟のことを聞くと村の人は表情を曇らせる。
「スプライス様が帰られた後、一年経っていなかったと思います」
そう始まった。
「ある日突然カティサークが姿を消したんです」
カティサークが姿を消して、村人総出で近隣を捜索したが見つからなかった。
禁域も探したが見つからなかった。
姉のヴィラローカがもっとも必死に探したというか痕跡のかけらも見つけられなかったという。
しかし数日後その姉も姿を消した。
「弟の行き先が分かった」
と置手紙を残して。
「その姉弟が使っていた家は書庫として管理人が住んでいますよ」
ソレは至極納得がいったと同時に残っていることが嬉しかった。
「『カティサーク』というのはこの村から出ることが出来なかったんだろ?」
「……離れれば離れるほど生体機能が失われていくって言ってた」
数週間ほどすごした家の前に立って、その家を見上げる。
相変わらず他の家と比べて低い。
表の人の気配に気づいたのか、管理人であろう人物が現れた。
「村長の許可はいただいてきました。良いですか?」
認(したた)めて貰った紹介状を差し出す。
管理人は一読して驚いたようにスプライスを見ると
「どうぞ、お好きなだけ」
懐かしい入り口の奥を示した。
匂いが違うような気はしたが、家のつくりは全く変わっていなかった。
その家にある本は以前来た時に有ったものが大半だった
思ったより劣化していないのは『書庫』としての役目を持たせたために、そう室内環境を保ったからだろうか。
少し本が増えているのはあの後増やしたのか、その後この家の現在の役割の為に追加されたものなのか。
あまり書物を必要とする文化が無い翼人の村だと思うと不思議な光景でもあった。
「一番奥の部屋だけ書庫ではないです」
示されたのはヴィラローカの部屋だった。
「見てもいいですか?」
懐かしさに家の中を見回してしまうスプライスが、ふとたずねる。
バーカンティンはスプライスの様子を見つつ無言だった。
まだこの土地の言葉をしっかりと話せないので、言葉を口にすれば何かぼろが出そうで…突っ込まれると色々厄介だ。スプライスとの関係を問われれば真実は面倒だったから、見た目から『神官と従者』くらいの感覚で見てもらえればと考えて。
「どうぞ」
ヴィラローカが怪我をしていた数日間はよく入った部屋。
この村の人々が普段は使用しないような形状の武具や服が沢山あったことを思い出す。
ドアを開けるとベッドなどは片付けられていたがやはり武器が陳列されていた。
それらは以前も部屋にあるのは見たが、実際に持っていたり使っていたりした姿を見たものは少ない。
そして当時主に使用していた槍がヴィラローカには有ったが…それは無いようだった。
そんなスプライスの様子を見て管理人が
「私は少し出かけてきます。ゆっくり見て行って下さい。今日はこちらにお泊りとのことですが良いですか?」
そう、村長に書いてもらった。
「はい、宜しくお願いします」
管理人が玄関先から羽ばたいて行く音がするまでそこで二人しでジッと待機する。
意味があってのことではない。
なんとなく、二人きりになったことをはっきりとしておきたかったからだろう。
羽ばたき音も消えたところでバーカンティンが息をつく。
「知識が中途半端な状態ってのは一番やっかいだな」
前世の記憶が戻りきっていないというよりも、その使用方法に手をこまねいている現状では外に対して何もリアクションをしないのが良いというのがバーカンティンの考えだったが、自己顕示欲のある現生では黙っているというのは辛いらしい。
前世で「演じていた」一の人格がそのまま現生での性格のようだ。
スプライスはどれであってもかまわないのだが、確かに一番付き合いやすい性格でもあるし形成しやすい性格でもあったのかもしれない。
「さて、手がかりが無いか探すか?」
小さい体で無防備に大きく伸びをするさまがスプライスには可愛く映る。
前世では全て計算された動作だったが、現生ではそうでもないようだから素直に可愛い。
本をあさっても参考になりそうなものの取捨選択自体が大変だった。
どれが関係あってどれが関係ないのか、それを振り分ける参考の情報に欠如している。
そもそも、参考になりそうな情報があるのか無いのかも分からない。
「おい、スプライス。あいつ呼んで来いよ」
さすがのバーカンティンでもこの家にある本を全て読むのは時間がかかる。
一昼夜費やしたところで音を上げた。
「探し人といえばアイツだろ?」
この場合ほぼ犬扱いだ…
この家に残るであろう彼らの何らかの形跡をインプットしてトレースさせる気だ。
そうは思ってもスプライスも同意だった。
切が無い状態で情報の正誤もわからないまま次に行こうとしても、正しい情報を探すところから始めなければいけない。
50年も前のことを調べるのはこの状態では難しすぎる。
数日後「使神官の間」より直接扉を通ってつれてこられたのはタ・ブレースだった。
その昔トレースの魔法を特別修行しただけあって『魔法使い』として使用できる魔法の中でも得意でかつ強力な力を発揮できる。
「ま、いいけどね」
ブレース自身は一度会ったことの有る姉弟だからバーカンティンが思っているよりも安易にその痕跡を探すことは出来るとのことだった。
「死んでてもどこへ行ったか分かるか?」
スプライスには分からないようにこっそりバーカンティンがたずねる。
「その人の持ち物や、死んでいても肉体の一部、例えば骨とかだけでも残っていれば分かると思うよ…?」
答えるが、あまりバーカンティンを直視しようとはしない。
多少落ち着きの無さも感じる。
理由は安易に想像ついた。
使神官の扉を使ってきたためにブリガンティンはつれてきていない。
バーカンティンの一卵性双生児の弟であり、ブレースの離れがたい恋人。
そのためだろう。
「ブレース」
コレが一番良いだろう、とバーカンティンがニッコリ笑いかける。
「がんばって」
いつもは無意識にかブリガンティンと違う行動や仕草をするが、ちょっと気を回せば同じ外見だから恋人だって一瞬見間違うはずだ。
そっと手をとって握ると、サッとブレースの頬に朱が走ったのをみて笑いがこみ上げてきそうだった。
ブレースが来るまでの間もバーカンティンはこの家の本を漁っていた。
ブレースがトレースしやすいようにスプライスが状況を説明し使用できそうなものを示している間も手近に有る本を取っては眺めていた。
作品名:SPLICE ~SIN<前編> 作家名:吉 朋