小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

フィラデルフィアの夜に8

INDEX|1ページ/1ページ|

 
フィラデルフィアに、指に巻かれる針金がありました。
暗い表情で、机の前に向かい、ただただ巻き続けていました。
目の前には分解されたピストル。部品のバネが床に転がりました。
何人もの人に向けたもの。弾丸を向けたもの。
やってしまった現実。
一瞬でも逃れようと、巻き付けてました。
単純な作業に溺れ、逃げようと。

 殺し屋。
そうなってしまった者。
 あまりの空腹と貧困で、人の一番大切なものを奪うようになった者。
音。
血を流し倒れる人影。
うめく声。
焦げたような匂い。
最後の最後、こっちを見てきた顔。
顔。
顔。
顔。
その目。
見開いた目。
感触残る引き金。

 いつしか麻痺して慣れると言われたそれは、頭から離れないようになっていました。

 頭を机に打ち付け、トーンとかすかな音。
指に巻き付けた針金が、縦に落ちた音。
トーン。
    トーン。
  トーン。      トーン。
トーン。      トーン。   トーン。
  トーン。
     トーン。 
10の指から落ちた針金が、音を出します。
それに続いて、音。
トン。 
      トン。
短い、精巧な作りのバネが、弾んでいます。
ピストルの部品の、バネ。
男が指に巻いた針金と、ピストルのバネが、奏でます。
        トーン。
トン。           トーン。
   トーン。 トーン。
           トーン。
 トーン。    トン。
     トーン。
            トーン。
トーン。
       トーン。

 見とれます、夢か現か、薄暗い部屋の中、心地良いリズムの中で。


 バネは、いつしか音を止めました。
どこにも見当たりません。
男もまた、同じように。


 ただ喧噪の中に耳を澄ますと。
トーン。
 トーン。 トーン。

人影と共に。

 トーン。