フィラデルフィアの夜に7
それは一人の白い服の浅黒い肌の男。
異国の歌をかすかに口ずさみ、足を遠心力につけて振り回しています。
かすかに人の形を取る針金が、男に合わせ、足を高く振り上げ空気を切り裂きました。
誰もいない街角。
誰も入らない突き当たり。
白い服の浅黒い肌の男が、針金を手に現れ、それを放り投げました。
動き出します。踊り出します。
知られていないステップで。知られてない腕の振り方で。
後ろを振り抜き屈み、足を人の頭の高さに。
両手をついて、逆立ちして回転力のままに両足伸ばして、独楽のよう。
片足着いて、もう一方、人の顎、その高さ。
ピュンピュン音鳴り出す。
針金、人の形作りだし。針金足蹴り上げ。
男はそれに合わせて足、下、伸ばし。
針金飛び跳ね、横回転。蹴り。
屈んで男、つま先、天に向け。
ねじり避け、針金。着地して距離を取る。
踊る男。踊る針金。
回る針金。回る男。
歌う男。歌う針金。
男はペレレ、ペレレと口ずさむ。
何の意味なのか、何の歌なのか。
針金、ピュン、ピュンとリズム。
同じ様に、同じなリズミカルに。
それは奴隷の踊り。
舞いとして隠した、祖先の闘いの武器。
遠く離れたここ。
孤独なここ。
今はただ、針金と踊る。
男が去り、また静かに。
針金はただ、地面に転がる。
もういない。
男はもう来ない。
本当に誰もいない街角。
誰も来ない突き当たり。
ただ針金が、そこに。
ただ針金がそこに立っている。
細い針金に、廃材を絡みつかせ、毅然と立つ。
誰も来ない、そこ。
男が、誰かが来るのを。
見つけてくれるのを。
踊ってくれるのを。
今は、じっと待つ。
作品名:フィラデルフィアの夜に7 作家名:羽田恭