フィラデルフィアの夜に5
それはまっすぐピストルへと向かっていきます。
それは男たちが構えた殺意。今、拘束されたもの。
顔を隠した名の無い英雄によるもの。
飛び出したのは、その英雄の指先。
フィラデルフィアの夜、それは無法の夜。
罪を重ねる男たちが、さらなる罪を重ねていく。
金のために殺意を向け、殺意のために銃を向ける。
そんな夜に、目も口も開けない黒い覆面の人物が、音もなく、どこと言う事も無く、現れ出す。
指先より針金を出し、縛り付ける。
ピストルを、足を、手を、体を、車まで。
明るくなるやいなくなり、ただ針金だけを残す。
誰なのか分からないまま。
ある夜です。
針金が飛び、一人の男を縛った時。
銃弾が、覆面を破ります。
それは目にも止まらない早さで、次々と。
備え付けられた機関銃。
薬莢が無限のように飛び散っていき、その分、英雄に穴を開けていきます。
どれほど経ったでしょう。
血は出なかったままで。
英雄が倒れた、その場所。
また人影が見えます。
明かりに照らされるそれは、接着剤で寄せ集めたような針金の塊でした。
ざあああああああああ、と音と共に崩れていき、針金が、蟲の様に地面を這っていきます。
それはもう地面を埋め尽くす量が、四方八方へと。
日が上がり、昼になり、もう一度そこを見ます。
針金は動かず、大分その数もありません。
ただ、不可思議な形にそこら中に絡みつき、どうやってもほどけない状態でした。
フィラデルフィアの夜。
無法を重ねる男たちは、暗い物陰を覗こうとはしません。
ふと気付いたら、針金が何かに絡みついているのですから。
それは一瞬でも視界に入ると、目に付き心に捕らわれるそれが。それらが。
いつの間にか、存在するのですから。
作品名:フィラデルフィアの夜に5 作家名:羽田恭