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悠々2

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「あれ…?落合君?」
「岸、久しぶり」
「久しぶり…!え?この辺に住んでるの!!?」
楽しそうに言う。
「いや、塾がすぐこの近くなんだ」
「あぁ~、そっか、頑張ってるんだね…。じゃ、今、帰り?」
「うん、まあ。夕飯何か食べてこうかと思っているとこ。て、お前、その袋、酒…?」
「この前二十歳になったからね。あ、今からご飯作るからさ、食べてってよ、ね。話、したいし、ね?」
妙に親しげに話しかけてくる。
でもまあ用事もないし。
それに、今日はちょっと、すぐに帰りたくない。
バッグの中の数値の書かれた紙を思い出す。

この久しぶりに会った級友に、甘えることにした。



「美味しい?」
「うん、まあ…」
彼は大学の近くのアパートで、一人暮らしだった。
楽しそうにビールの缶を開ける。
なんというか、年齢の差を思い知らされる。
「一口」
「駄目…!まだ未成年でしょ」
「同級生じゃん」
「分かってるくせに…」
はぁ、と呆れたように缶と置く。
その隙に、一口、ごく、と飲んだ。
「あっ…!」「駄目じゃん、君…」
僕の顔を見ながら言う。
「優等生の癖に。…何かあった?」
真面目な顔で覗きこまれる。
自分の行動を少し後悔した。
「いや、あの…」
「うん?」

今度は何故か涙が溢れる。
嗚呼、酒のせいだ。
僕は酒を飲むと泣き上戸になるんだ。初めて知った。
「いや、言いたくないなら言わなくていいよ…」
突然の涙におどおどと、背中をさする。
彼もさっきの酒のせいだとは思っているみたいだが。
「あまり君は、大人になっても飲まない方が良いね…」
一口でこんなに、と苦笑する。


話を変えようと、こんな事を言い出す。
「そういえば、お前、彼氏は……?」
言わなきゃ良かったと、後悔した。
急に、彼の顔がこわばる。
「え、いや、俺が家に来てて、良いのかって…」
「別れたよ」
「え」
「てゆうか、フラれた。僕より可愛い女の子の方が良いんだってさ」
「………」
不味い話題だったと、酒が入っている自分でも分かる。
実は、と続ける。
「アル中にでもなろうかと思ってるとこだった。一人だったら。君と偶然会わなければ…」
会ったから、少しだけ目が覚めた、と笑う。
哀しそうな目をしていた。

俺は、また少し酒を盗む。
くらり、と毒が回る。
でも少し気持ちいい。
それを彼は黙って見ていた。

「…勿体無い」
「え……?」
ふいをついて出たのは、こんな言葉だった。
「こんな綺麗で、優しいのに………、君を手放すなんて…勿体無い」
「はは、本当に酔ってるね。もう帰った方が良いよ……あ、でもその状態だとまずいね、もう少し酔いが覚めてから…」
照れてまくし立てている彼とはよそに、朦朧としていながらも、彼を見つめながら言う。
「好きだった―――…ずっと、そうと知ってから――――……」
「―――…っ?!」
彼はつぐんだ。
しばらくの沈黙。
彼から何か発せられるのを待っていた。


もう、どうでもいいという気持ちと共に。



「――――…本当に」
彼は呟く。
「…後悔するよ。そんな事、冗談で言ってたら。勢いで言ってたら。―――本当に?」
「そう…――本当に」

「好きだった………」
「僕は……分からないけど、君さえ良ければ、…ねぇ」

「哀しいんだ、僕は今。ねぇ……満たしてよ………」

そっと、指を絡ませて、近づく。
最初から変わらない、哀しそうな目が印象に残る。
そして、口づけ。
そして、………



それからは、覚えていない。
ただ、今までない、優しくて、親密な関係を持ったのは、確かだ。

作品名:悠々2 作家名:うめ子