招き猫
いつしか目の前のどんぶりもグラスも空になっていた。壁に駅の時刻表が貼ってあることに気づき、次の列車の時刻を眺める。上り列車も下り列車も、もういくらもしないうちに出るようだ。いずれもその次は三十分ほど後に出ると書いてある。今、店を出ればどちらの列車にも乗ることができる。しかし、それでは何だかせわしない。せっかく心も安らいできているのだし。それならば、どちらの列車に乗るにしてもその次の列車に乗るとして、もう少しここでゆっくりして行こう。そう思い、僕はウーロンハイをもう一杯注文した。
カンカンカンカンカン……
お代わりのウーロンハイを飲んでいると、近くの踏切の警報機が鳴り出し、ガタンガタンと列車が駅に入る音が聞こえて来た。心温まるのどかな昼下がりだ。久しぶりにこんなにのどかな時間を過ごせているのではないだろうか。
今はただ、辛いことがあったばかりで誰とも関わりたくないだけ。全ては時間が解決してくれる───
一杯目よりも心なしか濃いような気のするウーロンハイを飲んでいるうちに、何だかそんな気がしてきた。
〈小さなラーメン屋と、一杯のラーメンに救われたな〉
そう思い、僕は心の中で小さく笑った。
その時、入口のドアがガラガラと音を立てて開き、
「こんにちは」
というしわがれた声がして、初老の男性が入って来た。この店の常連なのだろう。
彼が重たそうなそのドアを閉める直前、僕はさっきの神社にいたあの三毛猫が、どこへ向かうのか〝我関せず〟とばかりに店の前を横切って行くのを見逃さなかった。