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 常雄は、弁護士の力とも言える弁論で彼女に対して莫大な慰謝料を請求していた。だが、この金額は常識の範囲内を超えるものであり、いくらなんでも一般人が背負うには余りにも重い金額であったのだ。一生掛かっても返せない様な金額を一人の人間に押し付けてしまった事実に対して常雄は後悔していたのである。その後悔の念は日に日に強くなった。そもそも彼女は、恋人関係が上手く行かずに心中を図ろうとする程に追い詰められていた。そんな死の淵に立たされた人間を更に突き落とす様に慰謝料の請求をしたのである。それなのに彼女は毎月、常雄に高額な慰謝料を振り込み続けて居る。下手をしたら、自殺行動を取るかもしれないのである。
 心配になった常雄は行動を起こした。

☆~公園のベンチにて~
 午後3時33分33秒 公園のデジタル時計は、その時刻を指す。
 公園には誰もいない。居るのは常雄と常雄を刺した女だけである。2人はベンチに腰を掛けて会話をしていた。
 「いいんですか!? 本当に、もう慰謝料を払わなくて?」
 常雄は、法外な慰謝料を女に請求したことに対して罪悪感を感じていたからか、それとも単に余計な事を考えずに日々の生活に戻りたかったから、いずれにせよ常雄は彼女にとって+になる事をした。
 そして常雄は、前から気になっていた疑問を彼女に尋ね様とした―――

 ―――だが、常雄が尋ねるのも束の間、「では、これで失礼します」
 女は常雄の声を遮る様に、あいさつをして駆けていく。

 「あ! ちょっと待って!」
 常雄の声は、女に届いていないのか、彼女は、振り返る事無く走っり去って行った
。彼女の走り去る姿を見て釈然としない常雄は、ふと彼女が忘れ物ハンドバックをしている事に気付いた。
 (まだ間に合う)
 常雄は彼女の後を追いかける。彼女が去ってから時間的にみて既に50mくらいの距離が離れているだろう。公園とはいえ、ここは繁華街にある寂れた公園であり、通りも建物も入り組んでいる。後を追いながらも急がないと見失ってしまうと思った常雄は、面倒な愚痴は吐き捨てながらも走る。
 彼女が入って行く場所は、なんとも煌びやかな装飾が施されたネオン街であり、彼女はその中の一件の建物に入った。常雄は建物に掲げてある看板を見て―――



 『ファッションへルス -ジェニファー』
 私は、その看板を見て服屋かと思ってその店内に入ったが、思っていたのと様子が大きく違った。店内はピンク色のダークな明調で受付には女性のカタログが並んでいた。いわゆる風俗店である事を知った。 
 そして私の抱いていた疑問は晴れた―――

  
 常雄は、女が忘れ物をする程焦っていた理由が判ったと同時に当初、女に対して抱いていた疑問が晴れたのである。
 その疑問は、慰謝料という高額な代金をどうやって女は捻出していたかという事であった。
 その捻出方法を理解した時、常雄は、どうしょうもない罪悪間に捕らわれた。
 常雄は自分が彼女を風俗に通わせてしまう程に追い込んでしまったと思うのであった
 
 「すまない」
 という表情を浮かべ、常雄は店を後にするのだが、そこで常雄は背筋に嫌な感覚が走ったのである。
 直感とも言うべき感覚だろうか、常雄は、その嫌な感覚を取り去る事ができないまま日々の生活を過ごしていた。
 そしてある日、思い出した様に法務局へと足を運んだ・・・、
 
 常雄の嫌な予感は的中していた。
 あの女の勤めていた店は、いわゆる闇風俗店であり、届出等していなかったのだ。
 
 常雄は思い出して想像してしまう―――
 

 自分が弁護士バッジを付けまま闇風俗店に入ってしまった事を―――
 

 そして、もし、闇風俗店が裏で暴力団と繋がっていたら―――
 

 そして、もし、私が違法風俗店を摘発する為の証人として、彼女を利用していたと、暴力団に勘違いされていたら―――



 
 彼女の身に危険が及ぶ!



 常雄は彼女に連絡を取ろうとしたが何度コールしても繋がらなかった。嫌な予感が拭えず思わず闇風俗店に駆け込むのだが、店の外には閉店という2文字が書かれたビラが張ってあるのみ。
 常雄の嫌な予感は的中してしまった。摘発を恐れた闇風俗は面が割れる前に夜逃げしていたのである。外から見える店内の様子は、何もない。人も誰一人いないという感じだった。それどころか店は、まるで神隠しにあったかの様に、風俗店の面影すら無かったのである。
 そして彼女も恐らくそれに巻き込まれたか―――あるいは・・・
 

 常雄は念のために彼女の住んで居たアパートを尋ねた。だが、彼女が家に帰ってきた形跡は無い。何度も足を運ぶが、やはり彼女は帰らない。
 常雄は彼女の親御さんの連絡先も調べてみたが彼女に家族は居なかった。 
 
 だれからも、捜索願も出されない。
 だれからも、助けるられることは無い。

 常雄は、この時、初めて闇の世界の卑劣さを知った。
 最初から誰にも心配される事のない人を利用すれば、何をしても足が付く事がないのである。
 仮に彼女を証拠隠滅の為に殺したとしても、誰も彼女を気にかける者などい等いないのである。これが奴らの手口である。
 



 常雄は警察に捜索願を出したものの捜査が進展する気配は全く無かった。
 常雄は後悔していた。
 全てはあの日、自分が我を失って、自暴自棄になっていたから・・・
 全ては、それが原因で、彼女を追い込んでしまったからだ・・・
 全ては自分の責任だ・・

 常雄は、自分を責める理由をあれこれと探している内に、自分への憎悪がこみ上げてきた。
 そしてその憎悪の矛先は、最終的に暴力団組織へと向けられた。
 全ての原因は、そこあるといわんばかりに常雄は行動を起こすのであった。




 常雄はまず、弁護士のネットワークを使い、過去の暴力団関係の案件を徹底的に調べた。彼の気持ちが通じたのか、警察関係者に、つながりのある弁護士が協力してくれた・


 調べていくと、
 奴ら違法風俗店は訴訟の警告を受ける段階で逃げている事がわかった。
 偽名を使いヤバクなった逃げる。別の土地で、また偽名を使い風俗店を経営する。
 同じような手口で、全国を転々と移動していた。。

 だが、奴らの正体、居場所などは特定できなかった。
 別の暴力団達も同じような手口で違法風俗店を経営していて、それが無数に存在するのだ。どの風俗店が、どの暴力団と繋がりがあるのか、全くわからなかった。


 弁護士仲間の話によると、日本中のあらゆる土地で、これと同じ犯罪が繰り返されているのだそうだ。、
 警察も犯人を捕まえても捕まえても、違法風俗店の数が減らない事に嫌毛がさしているのだそうだ。、

 私は、腹が立った。
 奴らや組織もそうだが、全ての人間にも……
 そこに通う客、そこに違法風俗店があるのに、周りの人間が気づかない無頓着さ。

 だが、それは、自分に対しての言い訳だった。
 元はと言えば、私が彼女を追い込んだ様なものなのだ。
 常雄は、自分自身の無頓着さに腹を立てていた。

 せめて、彼女から、連絡さえあれば、助けられる希望はあった。
作品名:同じシナリオ 作家名:西中