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凸凹(掌編集~今月のイラスト~)

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『過ぎたるは及ばざるが如し』。
 けだし名言だと思う。
 俺の身長は198cm、もし10cm低ければ『わぁ、背が高いのね』となるのかもしれないが、198cmだと珍獣でも見るような目で見られてしまう。
 顔もごついから尚更だ。

 もっとも、バスケ選手としてはこれが武器になる。
 大きくてもそんなに鈍くはないし、ジャンプ力にも自信があるから俺はチームのポイントゲッター、器用なタイプじゃないけど、シュートでもリバウンドでもゴール下でなら良い仕事ができると自分でも思ってる。
 社会人リーグでもちょくちょく得点王争いに顔を出すんだから、うぬぼれじゃないだろ?

 彼女はチアリーディングチームの一員だ。
 身長は……本人は言いたがらないから推測だが、145cmくらいだろう、体重は……当然秘密だが、平均をだいぶ下回っていることは間違いない。
 要するに相当小さいってこと。
 だけど、それは彼女の、と言うかチアリーディングチームの武器で、仲間に投げ上げられて華麗に宙を舞うのが彼女のポジション、軽いから高く上がるし、小柄だからクルクル回る、試合の時は観客から『オー!』っと簡単の声が上がるし、チアリーディング大会ではライバルチームに羨望の溜め息を漏らさせる。
 
 だけど、俺としては心配で仕方がない。
 だって、3段ピラミッドの上から宙返りしながら飛び降りたりしちゃうわけだし……。
 
 まあ、ここまで言えばバレバレだろうけど、俺は彼女にぞっこんなんだ。
 彼女もまんざらではないだろうと思うんだけど、俺と並んで歩くのはちょっと嫌らしい。
 まあ、身長差が50cm以上あるからね。
『半分くらいしかない気持ちになっちゃうし、首も疲れる』と言うのがその理由なんだけどね。

『まんざらでもない』ってのは、かなり謙虚な言い回しだぜ。
 そもそも、おととしのバレンタインに彼女から貰ったチョコは結構な高級品だった、チームメイトも全員貰ってはいたんだけど、俺のとはだいぶ差をつけてあったことがわかったんで、俄然気になりだしたってわけ。
 それで去年は手作りチョコに格上げされてたし、今年のはかなり手の込んだチョコだった、年々良くなってるんだから脈ありと思ってもうぬぼれじゃないだろう?

 で、今年のホワイトデーにはちょっと変わったお返しを用意してみた……。

「随分奮発したのね、お財布は大丈夫?」
 ホワイトデーに予約したレストランは、確かに奮発したさ。
 それにしては彼女の言葉が?
 いや、そういう娘なんだ、さっぱりした気性の癖に照れ屋でもあるんでそういう言い方になるのさ、『並んで歩くのは嫌』にしても、それを言う時の悪戯っぽい笑顔がまた良いんだよ。

「はい、バレンタインのお返し」
「え?」
「びっくりした? でもさ、それ飴なんだぜ」
 俺が渡したのは指輪の形の飴、でっかいルビーがついているように見えるけど、実は飴なんだ、リングの方もプラスチックだしね。
「ねえ、私のこと、子供扱いしてない?」
 そう言った時の彼女の表情……いつもの悪戯っぽい笑顔じゃなくて、本当にちょっと腹を立ててる風だった……作戦成功さ、どんな作戦かって? こんなのだよ。

「大人扱いして欲しい?」
「別にいいけど……一瞬、『そうなのかな?』って思っちゃったじゃない……」
 やべ、ちょっと涙ぐんじゃった、やりすぎだったか? 急いでフォローしないと。
「じゃあさ、立ち上がってくれる?」
「え? なんで? こういうイジワルする人だと思わなかったから立ちたくないなぁ」
「まあ、そう言わずに」
「しょうがないなぁ……これでいい?」
 立ち上がった彼女の前に、俺は片膝をついた、まあ、それで身長が合うんだけどね。
「俺と結婚して下さい」
 そう言いながら本物の指輪を出した……プラチナに5粒のダイヤが埋め込んであるやつ、飴に比べると芥子粒みたいに小さいけどさ。
「え? それ、本気なの?」
「さっきはごめん、今度は本気だよ、ダイヤも飴じゃない」
「……だったらいいわ、答えは『イエス』よ……」

 まあ、俺としては100%イエスと答えて貰える自信がなかったんで、ちょっとカマ掛けて様子を見ようと思ったんだ。
 で、彼女の反応から、これは間違いなくいけると思ってプロポーズしたんだけどね……あんまり良い作戦じゃなかったな。
 
 その証拠に軽く仕返しもされてるぜ。
 どんな仕返しかって?
 それはね、チアリーディングの時も婚約指輪を外さないって仕返しさ。
 それがどうして仕返しなのかって?

「ダイヤが小さいから引っ掛かる心配がないもの」

 ほらね、こういうことを言うんだぜ、まあ、悪戯っぽく笑いながらだけどね。