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しょうきち
しょうきち
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花、一輪

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月夜の晩に


 そして、ルヴァが二人目のスタッフとしてオルヴァルと共に働き始めた。
 アンジェリークの勧めもあって書庫から本を持ち出しては店番の傍ら読書に没頭し、時折会計を求められているのに気づかなかったりしたものの、事前にアンジェリークから恐らくそうなるだろうと忠告を受けていたオルヴァルがしっかりフォローをしていた。
 オルヴァルが仕入れで遠征した際にはアンジェリークが必ず隣にいて、ルヴァは客と楽し気に喋るアンジェリークの姿を飽きることなく眺めていた。
 商品についての質問にはルヴァが完璧に答えられる上、ぶらりと冷やかしにきた客ですらアンジェリークやオルヴァルの愛想の良さや人懐こさに巻き込まれ、結局何かを手にして帰っていく。
 オルヴァルとアンジェリークの二人の場合、共に似たようなテンションになって客がしばしば逃げ腰になっていたが、そこにルヴァの落ち着きが加わったことで店は一気に売り上げを伸ばした。

 そんな日常が瞬く間に過ぎていったある日の夕方、オルヴァルが店内の様子をチェックしながらくしゃりと頭を掻いていた。
「……あーヤッバい、もう欠品しちゃってる。また買い付けしてこないとなあ」
 売り切れ、と書かれたカードを指で弾いて片眉を上げているオルヴァルに、ルヴァがのんびりとした口調で答えた。
「今週は随分と来客数が多かったですねえ。いいことなんでしょうけど、何故でしょうねー」
 思い返せば何やら女性客がひしめいていた一週間だった。そしてやたらとアンティーク雑貨への問い合わせが多く、その辺りの説明を任されていたルヴァは接客に時間がかかっていた。
 不思議そうに首を傾げているルヴァへ、オルヴァルが肩を竦める。
「あー、それあなたのせいですよ。この間雑誌の取材あったでしょ」
 カウンター下で何かを探していたオルヴァルが戻ってきて、ぽんと手渡してきた一冊の雑誌へ視線を向けるルヴァ。
「ああ、ありましたね。でもそれと私と何の関係があるんですか」
 確かにちょっと前に雑誌の記者だという女性がやってきて、雑談を交わした後に店の前でアンジェリークを中央にしてオルヴァル、ルヴァが三人並んだ写真を撮られた。事前交渉でアンジェリークが取材許可を出していたらしい。
 元々女性向け雑誌の類にそれほど興味のないルヴァは、手渡された雑誌にはまだ目を通していなかった。
「付箋のとこ、ウチの店が載ってますよ」
 言われた通り付箋紙の貼られた頁をぱらりとめくると、見開きで店の前に三人並んだ写真が飛び込んでくる。
 ”美人オーナーとイケメンスタッフにほっこり癒される! 旧街道沿いの可愛い雑貨屋さん Mon tresor”と見出しがつけられていた。
 ルヴァはイケメンって何でしょうかね、と訝りながら写真下の記事を目で追って、余りのこっ恥ずかしさに首まで赤くなった。それを無視する形でオルヴァルが平然と読み上げる。
「ほらここ。『優しくて知性溢れる癒し系イケメン・ルヴァさんと、気さくな話し上手の爽やかイケメン・オルヴァルさんという、なんとも対照的ながら顔面偏差値の高〜いお兄さん(なんとお二人とも独身だそう)二人が常駐しています! 癒されたい人は絶対行きましょう!』……だそうです」
 褒めて貰えて悪い気はしないものの、このような紹介にはどうにもむず痒い気持ちになる。
 しかしさすがは女性誌、アンジェリークについてもきちんと褒めていて隙が無かった。その点だけはとても嬉しく思えたものの、それでも些か困った様子で眉尻を下げているルヴァを見て、オルヴァルはくすりと笑う。
「オレはお兄さんって歳でもないオッサンなんだけどなあ。まっ、何にしてもそれのお陰で売り上げ増なら有り難いですよ。ルヴァさん目当ての女性客は長居していっぱい買い物してくれるし」
 最近何故かやたらと名前を呼ばれる────とルヴァも気付いてはいた。
 それはアンジェリークやオルヴァルだけではなく、幾度か来店している女性客からも呼ばれ始めていた。
 大概は商品についての説明で終わっていたけれど、まるで昔からの顔見知りのように振る舞い始めた常連客には少しばかり辟易としてきたところだった。
 そんな日は大抵オルヴァルがルヴァをさり気なく書庫へと誘導する。それを露骨に残念がる女性客には、商品の検品作業が残っているからと笑顔で告げて────この少し申し訳なさそうな笑顔がまた、それ以上何かを言い辛い雰囲気を醸し出す────牽制してくれるのだ。
 ニヤ、と口の端を上げたオルヴァルに、眉尻を下げたままのルヴァが更に困惑の視線を返す。
「わ、私目当てですか……そう言われましてもねえ。私は質問に答えているだけですし」
 オルヴァルは商品の詰め込まれた箱を開け、淡々と補充をしながら話を続ける。
「でもほら、ここ最近毎日来てる若い子いるでしょ。律儀に買い物していくけど、雑貨屋で毎日散財していくって相当ですよ。あれはそろそろ対策練らないとマズいんじゃないかなー」
 毎日午後になるとやってくる女性客────アンジェリークやオルヴァルにも笑顔で話していくいい子ではあるのだが、ルヴァへと向けられる視線が二人に向けられるものとは明らかに違う点にオルヴァルは気づいていた。
 オルヴァルの横に並び、ルヴァも補充を手伝い始めた。
「対策ですか……うーん。悪気はないんでしょうけれど、確かにあの様子では生活が破綻しかねませんよねぇ」
 心配はそこかい、と内心突っ込みを入れるオルヴァル。
 昨日など手のひらサイズのテディベアを二つ購入して片方をルヴァに手渡してきた。渡された当人は、いい年をした男がこういうのを貰っても……と弱り切った様子だったが、それを押し切る形で彼女は帰って行ったのだ。勿論今日も来ていたが、オルヴァルは彼女が来店する時間を見計らい、事前にルヴァを書庫へと追いやっていた。
「昨日のあれ、結局どうしたんです?」
 そう言いながらがさごそと梱包を解き、中から小花の模様が浮き出た白磁の食器を並べ出す。
「私が持っていても仕方がないのでどうしようかとアンジェリークに話してみましたら、折角頂いたものだからと窓辺に飾ってくれましたよー」
 ルヴァから笑顔で告げられた言葉にオルヴァルの作業の手が止まり、その顔は呆気に取られていた。
「……それマジで言ってます?」
 徐々に不快そうな表情へと変わったオルヴァルに、ルヴァはぎくりと体を強張らせた。
「えっ……? あの、何か拙かったですかね」
 言っちゃ悪いがこの人アホなんじゃないだろうか、とオルヴァルは頭を抱えたくなった。
「マズいも何も……お揃いね、って手渡されたわけでしょ。それも、アンジェリークの目の前で」
「で、でもあの、私はただ普通に接していただけですよ。あのぬいぐるみだって私が欲しいと言ったわけではないですが」
 あわあわと弁解を始めたルヴァへ、全然分かってないなあ、と肩をすぼめるオルヴァル。
「あなたが幾ら相手に興味がなくても、向こうはそうじゃない。なんで店番する話になったんですっけ、あの人からの信頼を得るためだったんじゃないんですか」
 ルヴァは働き始めたその日に店番をすることになった経緯を話していた。
作品名:花、一輪 作家名:しょうきち