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御手紙 葉
御手紙 葉
novelistID. 61622
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小悪魔のオーケーサイン

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小悪魔のオーケーサイン


 私は彼女のことを知って、そして自分の気持ちを知り、さらにこれからどうすればいいのかを悟った。彼女は私のことなど何とも思っておらず、ただの友人としか見ていなかった。けれど、私は確かに彼女へ恋心を抱いていたのだ。
 私は玉砕覚悟で彼女に告白することを決めた。彼女は私の隣に並び、オフィス前の煉瓦敷きの道を歩きながら、最近姉に子供ができたことを語った。
「とっても可愛らしくて、いつまでも寝顔を見たいと思えてくるの、これが。彼女の為なら何でもできちゃう。自分の子供じゃないのにね」
 彼女は弾けるような笑い声を上げながら、ふと立ち止まってスマートフォンを見せてくる。気持ち良さそうに眠っている赤ちゃんの顔が映っていた。
「私にもこんな赤ちゃんが産まれたらなあ」
「加代子さんの子供なら、きっと可愛い子が産まれますよ」
 彼女はくすくすと笑い、私の背中を思いっきり叩いた。そして「口が上手ね」と軽い口調で言った。
「あの、大切な話があるんですけど」
「何かしら? 借金の保証人になってほしいとか?」
 私は狼狽えて言葉を探していたけれど、「そこのカフェで話しませんか?」と言った。私が指差した先には一軒の喫茶店があり、テラス席にはサラリーマンの姿が多く見受けられ、賑やかな話し声が響いていた。
「大切な話なら、もう少し静かなカフェがいいわね。もう少しいったところにある店にしましょう」
 彼女はそう言って軽やかな足取りで歩き出し、私は慌てて付いていく。
「私、人に相談されるのってあんまりないから、いいアドバイスできないかもしれないんだけど……」
「いえ、相談ではなくて。ううん、相談ではあるんですけど、それは提案というか……」
「いいわよ、何でも言って」
 私は人が往来する道の上で、少し気にはなったけれど、思い切って言った。
「私と付き合って下さい」
 彼女のころころと変わっていた表情が突然止まった。言葉を呑み、ただまっすぐ私を見つめてくる。
「お買い物でも付き合えばいいの?」
「違います。私の恋人になって下さい」
 彼女はきょとんとしていたけれど、やがてくすくすと笑い出して、その途端思いっ切り渾身の力を込めて私の背中を叩いた。私は悲鳴を上げてたたらを踏む。
「よくぞ言ったわね。三田さん」
 彼女は周囲の視線が集まってくるのも構わず、苦笑しながら「確かに」と言った。
「確かにそれは静かなところで話した方が良かったね。でも、」
 嬉しいよ、と彼女は私の背中をもう一度叩いた。今度は優しく、赤子の背中を撫でるような手つきだった。
「じゃ、じゃあ、私と……」
「うん。まずは“親しい友人”から始めましょう」
 彼女はそう言って、小悪魔の微笑みを見せて、片目を瞑ってみせた。

 了