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師匠と弟子と 12

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「俺の本音だ。お前は永遠に俺のものだ。でもこの世では一緒になることが出来ない。だからせめて、その証だけでも受け取ってくれ」
 ダイヤはかなり大きい。俺は宝石には詳しく無いが、それでも相当な物だと直感した。姉さんもその価値が判ったのか
「わたしは一生あんたのものだよ。約束する。もう誰も愛さない。きっとだよ」
 そう言って立ち上がって日村さんに口づけをした。それは濃厚で二人の想いの籠った口づけだった。
「鮎、御免、この人を駅まで送って行くわ。師匠に言っておいてね」
 姉さんは俺にそう言うと日村さんの腕に自分の腕を通して駅に一緒に歩いて行った。俺はその後ろ姿を只見送っていた。

 居酒屋に戻って簡単に事情を説明する。蔵之介師が
「やはり決着がついたか。俺の所に『今日別れに行きます』と連絡があったんだ。だから明日香も一緒に来させたんだ」
 そういってため息をついた。
「姉さん。あのまま一緒に何処かに行ってしまう、なんて事はありませんよね」
 俺の言葉に師匠が
「それは大丈夫だろう。一緒に行くなら伝言は『師匠ごめんなさい』だろう」
 そんな事を言った。そうか、二人には今夜の事も判っていたのだと理解した。

 翌日、明日香姉さんは何事も無かったかのように出て来た。そして昨日と同じ演目「厩火事」を掛けた。
 高座の袖で俺と蔵之介師が見守っている。昨日の今日だから大丈夫かと思っていた。俺は蔵之介師に
「姉さん大丈夫ですかね」
 そう尋ねると蔵之介師は
「見ろよ。失ったものもデカイが、素晴らしい『厩火事』じゃねえか。もう立派に真打の芸だよ。間違い無いあいつは大きくなる」
 そう言った目には光るものがあった。
 俺の人生で生の高座で一番の「厩火事」だったと記しておく。
作品名:師匠と弟子と 12 作家名:まんぼう