夢見が丘 3
「どこに行くんだろうね・・・」
「早く追いつかなきゃ、嫌な予感がする。」
「え?」
「分からないの?ほら。」
香織の目には夕日に照らされ輝く海が映っていた。
しかし、その輝きも今は不気味に感じる。
「まさか・・・」
活気あふれるビーチの奥、ブラックコーヒーにすこしミルクを足したような、不気味な岩がひしめく岩場。その上を見上げると、その丘、夢見が丘はある。
「急がなきゃ・・・」
その思いとは裏腹に、結局丘の前まで来てしまった。
最近の転落事故が原因だろう、『立ち入り禁止』と書かれた看板と黒と黄色の縄が張り巡らされていた。
高木は構わず先に行ったようだ。
香織にも迷いは無かった。
「ちょっと、香織。」
「何?」香織が冷たい声で返す。
「本当に行くの?」
「うん。」
「事故現場だよ、ここ。」
「じゃあ、愛衣はそこで待ってて。私は高木君をほっとけないから。」
香織はそそくさと行ってしまった。愛衣は仕方なく後に続いた。
「来るの?」
「あんたをほっとけないでしょ。」
高木は丘の奥でポツンと立っていた。
香織が駆け寄る。愛衣はなんとなく黙って見守る方が良い気がして、丘に登り切らずに後ろで二人を見ることにした。
「高木君。」
振り返った高木は疲れているのかいつもより少し老けて見えた。
「ああ、どうしたの?」
「どうしたのって、こっちのセリフだよ。ここ、」
「ここに、石田がいたんだ。いたんだよ。」
「高木君・・・」
高木と石田が親友だったのはクラス全員が知っていた。
「ここに来れば石田に会える気がしたんだ。」
「本当に?」
「え?」と、虚ろな目が香織をとらえた。
「高木君、ここに来るの初めてじゃないでしょ?」
「ああ。よく石田と来てたんだ。海も星も綺麗なんだ。ここから見ると。それに、気分が良くなってね。何でもできるような気がするんだ。」
「でも、危ないよ。」
高木は香織の忠告を無視して微笑んだ。
「ほら、香織さんも深呼吸してごらん。」
「え・・・」
「さあ。」
「香織!」
愛衣だった。
「どうしたの?愛衣。」
「そろそろ帰ろうよ。ね?」
高木が愛衣を睨んだ。
「愛衣さん、だっけ?」
「ええ。」
「君も深呼吸をしてごらんよ。気持ちよくなれるよ。」
愛衣は高木を無視すると香織の手を無理やり引っ張った。
「行くよ。」
「でも・・・」
愛衣は香織が簡単に引かないことは分かっていた。力いっぱい香織を引きずり、めいっぱい高木を睨んだ。
「いいから。」
高木は諦めたのか丘の更に奥へと行ってしまった。
二人も帰路についた。
「高木君、大丈夫かな・・・」
「香織、あんた、あのままだったら何されてたか分かんないよ。見た?あの目、変だったよ。ほっときなさいよ。あんなやつ。」
そうは言ったものの、愛衣は嫌な予感がしていた。高木はまともじゃない。あの丘に行ったからだろうか。
そして翌日その嫌な予感は現実のものとなった。
高木が夢見が丘から転落死したのである。
愛衣は『この勘の良さはテストに取っておきたい』と心のそこから悪びれずに思った。