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ともだちのうた(後編)

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「あやうく自殺するところを私はその生徒に救われました。ところが今度は彼のほうがオートバイの事故で亡くなってしまったのです。なんだか自分の身代わりに死なせてしまったようで、とてもすまない気持ちになりました。彼が私のことをどう思っていたのかは知りません。たまたま自殺の現場へ居合わせ、成り行きで助けただけかもしれません。壁の文字も、ただなんとなく格好つけてみたかっただけなのかも。でも私のほうでは彼に対して胸が熱くなるほどの友情を感じていました。病気がつらいとき、いつもここへやって来ては壁に刻まれた文字を眺めていました。そして心に誓ったのです。私は生きることをアキラメナイ、と」
 舞台装置の演出みたいに、閃光が幾度も室内を照らし、時間差で雷鳴が轟いた。そのたびにおじさんの姿がわたしたちのいるほうへと近づいてきていた。
「やがて中学を卒業し社会人となってからも、この時計塔は私にとって神聖な場所でした。だから同窓会の席で、アキラ様という怪談があることを耳にしたときは愕然となりました。友情の証であるはずのこの場所が、いつの間にかクラスメイトを呪うための儀式の場へと変貌していたのです。それはとても放置できることではありませんでした。だからこの学校で用務員を募集していると知り、私は迷わずそれまでの仕事を辞めたのです」
「アキラ様の噂を聞いた生徒がここへやって来るのを、ずっと防いでいたのね」
「そうです。しかもここへ来るのは生きた人間ばかりではありませんでした。それは私自身が死んでみてはじめて知ったことです。イジメにあうことで他人を憎んでいる生徒たちのなんと多いことか。とても悲しいことです。彼らの多くは自分が死んでいることにまだ気づいていませんでした。だから私はそっと教えてあげていたのです。あなたはもう死んでいる、だからここへ来てもしかたがないのだよ……と」
 気がつくと、おじさんの姿はもうすぐ目と鼻のさきにあった。トムがわたしをかばうように、そのまえへ立ちはだかる。
「私の役目はもうすぐ終わります。この旧校舎は近いうちに取り壊されるのです。だから……これが最後の務めになるかもしれませんが」
 稲光りと雷鳴が同時に起こった。まるで爆弾でも投下されたみたいに轟音と閃光があたりを包む。トムの姿がいつの間にか消えていた。そしておじさんは、わたしの肩へポンと手を置いて、こう言った。
「さあ、きみも帰りなさい。本来自分があるべき場所へ――」