師匠と弟子と 10
二階に上がり自分の部屋のドアを開けると、窓からの春の風がカーテンを揺らしていて、タンスの上に置いたラジカセ。その隣にあった写真立てが俺の置いた向きとは若干違っていた。写真には俺と梨奈ちゃんが写っている。青森から帰った時に梨奈ちゃんの部屋に入った時にスマホで写したものだった。
母の考えなら、あの時梨奈ちゃんはどう思っていたのだろうか? そこまで考えて、納得した。あの時梨奈ちゃんは平気な顔をしていたが、俺にフレンチ・キスをした時には、やはり、かなりの覚悟だったのだと考えが及んだ。
「綺麗になったね。見違える様だよ」
「あの時の写真印刷したんだ」
梨奈ちゃんは俺のベッドの上に座っている。部屋の隅にはバケツと雑巾。それに掃除機とゴミの袋が置かれてあった。
「ちゃんと掃除したんだよ」
「うん。判る」
梨奈ちゃんが自分の座っている場所の隣を軽く叩く。横に座れと促しているのだ。梨奈ちゃんは姉さんかぶりの手拭いを取ると肩まで伸びた髪が風にふわっと揺れた。
隣に座り、梨奈ちゃんの肩を軽く抱き寄せると梨奈ちゃんは俺の方に体を向け目を瞑った。その唇に自分の唇を重ねる。お互いの舌が絡み合い、お互いの気持ちが交差して行くのが感じられる。そのまま少し力を入れて梨奈ちゃんの華奢な体を抱きしめた。
開け放たれた窓から、何処かの薔薇の香りが風に乗って部屋に入って来た。その風は二人を包むと、また外に出て行った。
梨奈ちゃんも俺の背中に手を回し、お互い抱き合う形になった。唇を離すと梨奈ちゃんの口から言葉が漏れた
「暫くこのままで……」
俺は返事の代わりに静かに黙って頷き。もう一度唇を重ねたのだった。