夢見が丘 2
「家に帰っても一人になるので。」と、泣きながら授業を受けていた。確固たるその意志は一種の意地のようにも見えた。涙でにじむ目で黒板の文字は読めたのだろうか。
その日愛衣は初めて倉本と石田が付き合っていたことを知った。
「え?あんた知らなかったの?」
「うん。なに、じゃあ香織は知ってたの?」
「もちろんじゃない。おっとっと。」
下校途中にある『飛び出し注意』と書かれた真っ赤なボロ看板を避けながら香織は言った。
「教えてくれても良かったじゃない。」
「教えるも何もクラスのみんなが知ってるはずよ。あんたが知らない方が驚きだわ。」
「うう・・・」
「それに、」
香織は少し愛衣の前に出ると、振り返って言った。
「あんた、あんまり他人に興味ないじゃない。」
「そうね。」
愛衣は一年前にこの街に引っ越してきたばかりだった。父親の仕事の都合で何度も何度も学校を転々とした。しばらくいることになった今の高校で初めて声をかけてくれたのが香織だった。香織もまた、転勤族でクラスに友達がいなかったらしい。
「いやー、愛衣がいて助かったよ。死んだ目でずっと音楽聴いてるから声掛けづらかったけどね。」
「ほっといてよ。」
「あ。」
「何よ。」
「あれ、見てよ。あれ高木君じゃない?」
香織が指した方向にはなるほどたしかに同じクラスの高木がいた。
「うん。高木がどうしたの?」
「なんか、足取りがおかしくない?」
「え?」
二人と横断歩道を挟んだ反対側にいる高木はフラフラしながら路地へと向かった。
「追いかけよう。」
「え?何でよ・・・関係ないじゃない。」
「そうだけど・・・」
愛衣は香織の頬が少し赤くなった気がした。夕日に照らされただけかもしれない。
「心配じゃない。とにかく行ってみようよ。」
「う、うん。」
二人は高木の後を追って横断歩道を渡った。