お願いした?
湯呑みをテーブルに置いた栞さんは、向かい側に目をやりました。
「神社で、お願いした?」
葉月さんの口から、カップが離れます。
「初詣でしようと思いましたが…してません」
マグカップをテーブルに置き、軽く波打つ紅茶を葉月さんは眺めました。
「─ 人出が多い時にお願いしても…神様に伝わらないって、如月さんに言われたので…」
「…2月君は、正しいと思う。」
ティーポットに手を伸ばした栞さんは、自分の湯呑みに紅茶を注ぎます。
「自分の都合で、お願い事が有る時だけ出向いて、それを叶えてもらおうなんて虫が良すぎると思わない?」
注ぎ終わったティーポットを、栞さんは元に位置に戻しました。
「事前に何回か通って、熱意とか誠意を見せない人の願い事を…叶えてくれないと思うな。神様」
「…」
「お願い事する前には私…3回以上は、純粋な お詣りをする様にしてる」
湯呑みを持ち上げた栞さんは、紅茶を口に含みます。
「お礼にお詣りするのも、礼儀だと思うし…」
カップの持ち手を、指で なぞっていた葉月さんが、顔を上げます。
「他にも 有ったりするんですか、願掛けのコツ」
「神様を煩わせない!」
「…?」
「自分で努力すれば何とかなる事をお願いしたり、何でもかんでも願掛けしたりするのは、やっぱり駄目だと思う。」
何かのスイッチが入った葉月さんは、腰を浮かせて前のめりになりました。
「叶えて貰ったお願い事とか、あるんですか?」
葉月さんの迫られ、栞さんが顎を引きます。
「…受験で実力が出せます様にとか」
「何で…学校に合格します様にって、お願いを しなかったんですか?」
「合格は、当人が実力で何とかするものだと思うんだよね。」
栞さんは、葉月さんの肩を指で付きました。
「神様には、当日、無事に受験出来ない可能性を潰して貰えれば、十分」
肩を押された葉月さんが 椅子に腰を落とす様子を、栞さんが目で追います。
「後、友達になれそうな人に巡り会えます様にって お願いしたかな」
座り直した葉月さんは、栞さんの方に顔を向けます。
「運は、努力だけじゃ どうにもならないからですか?」
栞さんは、頷きました。
「今こうして 葉っぱちゃんとお茶が出来てるのは、その機会を生かして 私が行動した結果。」
マグカップを口に運ぶ葉月さんに、栞さんが目を合わせます。
「だから、葉っぱちゃんに合わせてくれた神様には…感謝してる」
凝視された葉月さんは、顔を真っ赤にしました。
「─ わ…わざわざ目を合わせて、そ…そう言う事言うの 止めて下さい。。。」