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優しさに感染した男
優しさに感染した男
novelistID. 61920
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ブルー・リターンズ

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ブルー・リターンズ


少年はその日ひどくイライラしながら帰路についていた。
学校でまたイジメられたのだ。
理由はドッジボール大会で少年がチームの足を引っ張ったからであった。
少年は生まれつき体が弱く、体育の時間は毎回イジメられていた。
「お前なんかいらない。」とか、「そんなこともできないなら、いないのと同じだ。」とまでも言われた。
「いないのと、同じ、か。」
少年がトボトボと歩いていると道に何か赤い小さな円が見えた。
「何だろう。血かな?」
その赤い円をたどっていくと、そこには空のように綺麗な青色の小鳥が翼に傷を負って横たわっていた。
その小鳥はこの世のすべてを恨んだような、誰かに助けを求めるような、怒りとみじめさがドロドロに混ざった声で鳴いていた。
「お前、飛べないのかい?」
「ギィ」と、小鳥は少年の問いに答えるように鳴いた。
普段の少年ならば小鳥を助けたのかもしれない。しかし、その日の少年は違った。
「そうか。飛べないのか。ふーん。」
少年は小鳥を抱えると人目の少ない空き地へ行った。
「なあ、お前は飛べないんだろう?」
少年は少し微笑んだ。
「じゃあ、その翼も無いのと同じだよ。いらないだろう?僕がとってあげる。」
少年は小鳥を押さえると力いっぱい羽を引っ張った。小鳥は叫びながら抵抗したがむなしく、少年が翼をむしり取る頃には動かなくなっていた。
「僕は何をしているんだろう・・・」
動かなくなった小鳥を見て少年は正気を取り戻した。
自分がとった恐ろしい行動に悪寒を覚えると、少年は逃げ帰るように家へ帰った。


長い年月が流れた。
青年はその日ひどくイライラしながらアパートへ向かっていた。
交際中の彼女がなかなか別れてくれず、今日も彼女の部屋へ出向き、鍵を返すよう説得しに行くのだった。
「スペアキーなんてあげるんじゃなかった。」
やがて彼女の部屋へと着いてしまった。
「・・・上がって。」
「ああ・・・」
彼女は今日も青いスカートをはいて青年を出迎えた。昔から青が好きらしい。
そしていつものように二人の喧嘩が始まった。普段の彼女なら「出てって!」といって泣き出すのだが、その日は違った。
無言でどこかへ行ったかと思うと包丁を青年へと突きつけた。
「おい!悪い冗談はよせ!」
「どうして!どうして分かってくれないの?私の気持ちを!」
「落ち着け・・・」
「ねえ・・・もう私をギュッと抱きしめてくれないの?」
「それは・・・ああ。もう、うんざりだよ。前から言ってるじゃないか。君と別れたいんだ。」
「そっか。ふーん。抱きしめてくれないんだ。」
彼女は急に黙ったかと思うと微笑んだ。
「じゃあ、その腕も無いのと同じよ。私が取ってあげる。」
「何・・・」
青年は必死に逃げようとしたがあまりの突然の恐怖にうまく動けなかった。
「やめろ・・・・・」
「あなたが私を愛してくれないのなら、あなたなんていないのと同じよ。」
「お前は・・・あの時の・・・」
「何を言ってるの?」
彼女は思い切り青年の体を切り裂いた。


血みどろになった自分の手を見て彼女は我に返った。
「ああ・・・私ったらなんてことを・・・」
この光景を見られたら何もかも全てお終いだった。
しかし彼女には、もはやどうでもよかった。
彼女は無言でアパートの最上階へ行くと、青い青い空を見上げて、飛んだ。