師匠と弟子と 7
歩きながら直接梨奈ちゃんに訊こうと思った。並んで歩きながら
「あのさ、卒業と入学のお祝いを兼ねて何かプレゼントがしたいのだけど、何が良いか浮かばないんだよね。何か欲しいものがある?」
「え、プレゼント!? そんな悪いじゃない。わたしに何か買ってくれるだけの収入があるの? それはとても嬉しいけど……」
「折角だから記念に何か……」
梨奈ちゃんは歩きながら考えていたが
「そうねえ。鞄が欲しいな。大学に通う為の鞄。ブランド物じゃなくて使いやすいものが良いな。しっかりとした作りのものがいいな」
「そんなもので良いの?」
「うん。だってこれから毎日使うものだから、毎日一緒にいられるじゃない」
その言葉がどうのような意味を持つか如何な俺でも判った気がした。その後お茶をしてから鞄を選びに行った。結局、国産の女性用のもので、A4のファイルやノートPCが入るビジネスバッグ風なものにした。手で持つ事も出来るし肩から掛ける事も出来る。女性用なので小物が入るポケットやマチもあった。色は濃い目のベージュにした。
「ありがとうね。この鞄を鮎太郎だと思って使うね」
その後レストランで食べた夕飯は、恐らく人生で一番美味しいと思った。
駅から師匠の家まで歩いていく。既に夜の帳が降りて街の街灯が並んで歩く二人を照らしていた。
僅かに手が触れると思い切って梨奈ちゃんの手をそっと握ってみると、梨奈ちゃんもしっかりと握り返して来た。梨奈ちゃんの顔を見ると目が合った。そして微笑んでくれた。
この時、俺は梨奈ちゃんと付き合うと言う実感を感じたのだった。