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優しさに感染した男
優しさに感染した男
novelistID. 61920
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いきがい

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グサリ、グサリと嫌な音が聞こえてくる。連れていかれた仲間が殺される音だ。俺の周り仲間が悲鳴をあげる。俺はその音を淡々と聞いていた。こんなことにはもう慣れてしまったのだ。ただ、自分ではなくてよかったと思うだけだ。そうして俺はまた何をするわけではなくフラフラと狭い監獄の中をさまよう。俺もいつか連れていかれて殺される。そんなことを考えて生きる日々に生きがいなんてものは無い。仲間の一人がブルブルと肩を震わせ泣いていた。そういえば俺も最初はあんな風に泣いていたものだ。

 俺がこの監獄に連れてこられたのは数週間前だった。いつものように生活をしていたら急に上から捕らえられたのだ。そして気が付くとここにいた。全く状況が飲み込めない俺に監獄にいた仲間たちは優しく教えてくれた。
「ここはどこだ。」
「監獄だ。」
「俺たちは何をされる。」
「殺されるのだ。抵抗はできない。ただ、殺されるのだ。」
「逃げようと考えたことはないのか。」
俺がそう言うと仲間の一人がフーっと息を吐いて静かに
「やめておいたほうがいい。私の大切な仲間はここから逃げ出そうとした。しかし、この監獄を出た瞬間奴らに捕まえられ、殺された。」
と言った。
「奴ら?奴らとは何だ。」
「奴らはここの支配者だ。恐らくお前をここに連れてきたのも奴らだ。奴らは俺たちをここに閉じ込め、毎日俺たちの中から誰かを選び、殺すのだ。目的は分からない。」
そう言うと黙ってしまった。その仲間ももういない。
 
その日は妙に胸騒ぎがした。俺は何かを悟っていた。
すると監獄の上部が開き、巨大な何かが俺を捕らえた。そして俺は監獄を出された。息が苦しい。暑い。これから殺されることを分かっていたが、不思議と怖くなかった。それよりもやっと「いつ殺されるか」という恐怖から解放される悦びの方が強かった。抵抗する気はない。そして俺は台のようなものの上に置かれ、頭にナイフを突き立てられた―――










「大将、今日のタイはうまいねぇ。」
「へえ、さっきまで生け簀で泳いでたんで、活きが良いんですわ。」
作品名:いきがい 作家名:優しさに感染した男