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三人の帰り道

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「俺たちって、だれが最初に死ぬのかねえ」
「なによ、急に」
 三人で行く帰り道。兄と姉が話しているのを聞いて、僕は「兄ちゃんでしょ」となにも考えずに口にした。「一番年上なんだから」
「いや、そうとも限らないだろ。俺とお前は四歳差だし、こいつとに至っては二歳差だぜ。大人になったらそんなに大差ないじゃん」
「それでも私は兄貴よりは長く生きるけどね」と、姉が返して、僕は怯えた。言い方が口げんか(たまに手も出る)する開戦合図のそれだったからだ。
 でも、兄はそれにも取り合わず「そうかもな」とだけ呟いた。姉も僕も首を傾げた。
「どうしたの、兄ちゃん。いつもとなんか違うよ」
 僕は尋ねた。けれど、兄は返事をせず、黙ったまま道を進んだ。姉も僕もなんとなく喋りづらくなって、そのまま歩いた。
 雲が切れたのか、西日が差してきた。濡れたコンクリートの道が黄金色に輝き始めている。
 兄が突然、駆け出す。
 少し先にあった自動販売機の前で立ち止まり、サイフを出している。僕らはその場で立ち止まった。二人で、蛍光灯に白々と映し出される兄の顔を見ていた。
 戻ってくると、僕にコーラ、姉にミルクティーを渡し、自分はコーヒーを握っていた。
「なに、兄貴、本当にどうしたの。あとで金くれって言っても、私、払わないからね」
 僕にでも分かるようなトゲトゲした口調にも、兄は反応しなかった。「気味悪いわ」と呟いて、姉は缶を開けた。
「俺たちって、俺たちの中で一番長く生きたやつが、残りのやつの葬式、挙げるんだよな」
 兄が話し始めて、僕はコーラを開けるタイミングを逃してしまった。
「はあ?」と姉が返した。
「いや、だからさ、この三人の中で最初に死んだやつは、残りの二人に葬式挙げてもらって、次のやつは、残りの一人に挙げてもらうだろ」
「ま、まあ、そうなんじゃないの。知らないけど」
「やだよなあ。こんなかったるいこと。するのもされるのもさ」
 せわしなくミルクティーに口をつける姉を見ずに、兄は喋る。
「俺は、どっちかと言うと、するほうが、いやなんだけどな」
 そう言って兄は、コーヒーを一気に飲み干した。
 黄金色の道は段々と赤みを帯び、僕は思わず「ねえ」声を上げていた。影を黒々と背負っていた二人が振りかえり、僕を見ながら眩しそうに目を細めた。
「えっとね、あの、えっとさ、兄ちゃんいつの間にコーヒーなんて飲むようになったの」
 二人とも、瞳が真ん丸になった。
「そうよ兄貴。なにカッコつけてんのよ。うわ、しかもブラックじゃん。超カッコつけ」
「んだよ、別にいいだろ。もう、俺は大人なんだよ。お前らお子ちゃまと違って」
「さっき自分で私とたった二歳差って言ったばっかりですけど」
「それは肉体年齢だろ。俺がしてるのは精神年齢のハナシ」
「それこそ大差ないじゃん」
「なんだと」
「なによ」
「まあまあ、二人とも止めなよ」
 と、僕が言うと、二人は一瞬固まって、そしてなぜか笑い出した。
「なに、なにがおかしいんだよ」なんだかバカにされたような気がして僕は大きく声を上げた。すると今度は二人が僕に「まあまあ」と言ってきて、マネをされてるみたいだったけど、僕もおかしく感じて、一緒に笑ってしまった。
「つーかさ、兄貴、葬式ってふつー、それぞれ自分の家族にしてもらうもんじゃないの。ほら、夫とかお嫁さんとか、息子とか娘とか」
「……ああ」と兄は笑いを引っ込めて息を吐いた。
 そして、姉を見てにやりと笑った。
「お前、その性格で結婚できると思ってんの」
 そうして言い合っているうちに別れ道が来て、僕ら三人はそれぞれの帰り道を行った。
 一人で道を歩きながら、手の中で温くなり始めたコーラを開けた。
 一気に飲み込むと炭酸がツンと鼻に抜けて思わず目を強く瞑った。体中にまとった線香がふわりと漂っているのを感じ、力を入れすぎて目じりに涙が浮かぶ。まぶたの裏には三人で歩いた帰り道が輝いている。
作品名:三人の帰り道 作家名:ひいろ