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御手紙 葉
御手紙 葉
novelistID. 61622
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この街に暮らし始めて

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あなたとこの街に暮らし始めて、私は三つのことを学びました。
 一つは変に着飾らず、自然体でいること。
 これはもうあなたもわかっている通り、私はあなたの前で少しでも良心的な人間を演じようとしていましたね。あなたに嫌われたくなくて、捨てられるのが怖くて、あなたの前ではいつも高尚であり続けようとしました。
 でも、結局無駄でしたね。私はついつい本音で怒鳴ったり、堪え切れなくて泣き出してしまったりしました。あなたは私の本当の顔を胸の内から引っ張り出し、涙を拭ってくれます。私があの電車の中で泣いていた時、あなたが一目もはばからず私を抱きしめてくれたこと、今でも覚えています。
 二つ目。それは規則正しい生活を送ること。
 あなたは毎日毎日決まった時間に起きて、決まった時間に食事をして、そして寝ますよね。私もあなたと一緒にいる以上、生活のリズムを合わせなくてはならなくなるのですが、あなたと一緒にいて心の痞えが取れました。
 やっぱり生活のリズムって、人の幸せにつながってくるものかもしれませんね。朝起きて、鳥のさえずりが聞こえて、窓を開くと涼しげな風が吹き込んでくる。そういう当たり前の幸せが、あなたと一緒にいると本当に涙が出るほどに大切だと思えてきます。
 三つ目は何でしょう? あなたもよく言っている通り、嘘をつかないことかしら。なかなか難しいのですが、私はとにかく自分に嘘を付かず、素直に生きていきたいです。変に気負わずに駄目な自分でも、弱い自分でもいいから、ありのままで……そういう軽々しさが私には必要だと思うんです。
 自然体でいること。
 規則正しく生活すること。
 自分に嘘を付かないこと。
 あなたには無縁のことですが、きっと私もあなたにいつか追いついてみせます。あなたもどうか、私をこの街でずっと見守っていてくださいね。