「歴女先生教えて~」 第三十八話
「簡単に殺せる相手じゃないから、順をたどって調べてみると数人が浮かび上がるの。徳川の公武合体に反対する勢力から想像すると・・・薩長の誰かね」
「龍馬の暗殺も薩摩藩だと聞きました。ひょっとして同じ人物でしょうか?」
「う~ん、違うと思うけど、長州藩の奇兵隊なんかは俗にいうワルたちを集めた集団だったから殺し屋になった人物もいたと思われるね。後に総理大臣までなした人物と言えば解るかな?」
「先生!まさか伊藤博文?」
「根拠はね、孝明天皇は長槍で刺されたと証言した医師が居たの。それが事実なら長槍が使えたのは一人だったの」
「伊藤博文がハルビン駅構内でロシア兵の閲兵中に暗殺されたことも因果応報だったのですね」
「高木くん、結果論だけどそう言えるわね。安重根(あんじゅうこん=博文暗殺団の主犯と言われている人物)は捉えられて犯行の理由を聞かれ、十五項目挙げたのだけど、その十四番目に伊藤が孝明天皇を殺したと裁判で発言したため、一時閉廷となった。この安重根は今や韓国の英雄にされているけど、彼自身は日本や天皇には悪い印象は持ってなかったの。伊藤だけに強い反感を持って暗殺に臨んだと言える」
「安重根は誰から日本の秘密を聞き出したのでしょう?」
「伊藤をよく思っていない誰かが作為的に教えたのかも知れないわね。クーデターで成り立った政府だったから、そうとうやばいこともやっただろうし、隠さないといけないことも多かったと思うわ。伊藤の暗殺は明治42年(1909年)10月26日だったから、維新のクーデターから40年後ということになる。残された政府の首脳で明治政府の最大の秘密を知るものは残り少なくなっていた。陰で糸を引いていたのは誰だか解らないけど、伊藤の検死をした医師の話から銃弾は安重根の位置から発砲したものだけではなかったという信じられない診断が出たの。銃弾が使用された銃とは別物だったという訳。だとしたら、新犯人は安重根以外の誰かに依頼されて密かにタイミングを見計らっていたということになる。ますます奇怪なことよね」
「先生、解らなくなって来ました。伊藤がハルビンで殺されなくてはならなかった最大の理由が、安重根が言う韓国への仕打ちとは別にあるとしたら何でしょうか?」
「なんだと思う?高木くんは」
美穂は高木の答えを鋭い視点だと感じた。
作品名:「歴女先生教えて~」 第三十八話 作家名:てっしゅう