月の光に照られて。
雲から漏れてきた月の光に照られて、霜月さんが呟きました。
「百人一首だよ?」
背後に立っていた初音さんは、違和感を感じて 霜月さんのスカートの裾に目をやります。
「上の句が『秋風に たなびく雲の たえ間より』で…」
初音さんは、得意げな霜月さんの口上を遮りました。
「…スカートの裾から覗く、フサフサした感じのものは、何?」
「尻尾。」
答えながら霜月さんは、パタパタ振って見せます。
「今夜は…満月だからねぇ」
尻尾を目で追う初音さんに、霜月さんは 当たり前の様に説明しました。
「─ 光を浴びると、生えてきちゃうんだよね。」
「え?」
「先祖に…狼男でも、いたのかもしれないねぇ」
何かに思い当たった初音さんは、急いで周囲を伺い 声を潜めます。
「隠さないと! 急いで!!」
必死の忠告を、のんびりと受け流す霜月さん。
「大丈夫だって! 魔女狩りとかが ある訳でも ないんだし。」
「─ でも、誰かに見られたら…」
「向こうが勝手に、勘違いしてくれるもんだよ? ファッションなんだって。」
「…え?」
「それなりの服きてたら、コスプレしてると 思ってくれるみたいだしね…」
「─」
「本物だって告白してみても…冗談にされて、信用して貰えなくてねぇ。。。」
身体から力を抜いた初音さんは、しゃがみ込んで 夜空を仰ぎました。
「世の中って、私の手には負えないかも。」