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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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君の記念日に懺悔する

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有希がバイトをしていたコンビニに行ったのは、春休みであった。有希からの手紙を読んで、懐かしさを覚えたのは確かであった。その感傷から、ぼくはおでんを買うつもりでいた。そのおでんのそばに立っていたのは、写真部に在籍している恩田明日香であった。ぼくは写真部の副顧問であったから、恩田であることはすぐに分かった。彼女は拝むしぐさをした。もちろん彼女は驚いただろうが、ぼくの方がはるかに驚いていたのだ。すでに気持ちは葛藤していた。結局何も買わずにコンビニを出た。
 観て見ぬ振りが、恩田のためになるのだろうか。バイトで貰う金の使い道だけは聞いてみようと思った。
 恩田は2年生で、ぼくは授業には出ていないから、恩田と顔を合わせるのは、クラブ活動の時だけであった。翌日の午後、写真部の部室に出向いた。ドアを開けると右側に暗室があり、その奥に引き戸で区切られたスタジオがある。生徒たちはそこを更衣室にも使っていた。部員は3年生は卒業してしまい、旧1年生が3名と旧2年生が2名であった。春休みであるから写真部は自由活動であった。そのことを利用し、ぼくは恩田を電話で呼び出した。
「恩田いるか」
「はい」
ぼくは恩田の声を聞いたが恩田の姿が観えないのであまり注意もしないで、スタジオの引き戸を開けた。
「痴漢」
恩田はブラジャー姿でいた。
「お前こそ何でそんな恰好してんだ」
「現像するから着替えていたんです」
(フイルム時代の事です)
「そうか、悪かったな」
「バイトのこととおあいこにしてくれる」
「そんなことか、許さないぞ」
「先生だってその方が良いと思うけど」
「僕は教師を首になってもかまわないよ」
「強がり、先生になるために勉強したんでしょう。証拠の写真は撮りました」
「恩田、バイトして金が欲しいのか、それとも指導されるのが怖いのか。3年生になれば大学受験はすぐだ、勉強する学年だろう」
「そんなこと分かります」
ぼくは恩田のその言葉を聞いて、家庭に何か事情があるのではないかと感じた。
「バイトは辞めろ、それから、今はこれだけか持ってないが、写真は買うからな」
ぼくは1万円を恩田に渡した。
「恐喝、した訳ではないから、バイト辞めると授業料が払えないんです。だからこのお金はお借りします」
「そうか、分かったからな。先生はバイトの金の使い道が知りたかった。そんな事情なら申請すれば、バイトは許可されてんじゃないのか」
「貧乏に観られたくないんです」
「卒業するまで、金に困ったら先生が何とかする。そう、『授業料未納者は昼休みに事務室に来て下さい』あの放送も辞めさせるように頼んでみる」
  
恩田は見事授業料の安い国立に合格した。
恩田がぼくに渡したネガはプリントしないまま焼却した。

 大学に進学できたのも先生との2人だけの秘密を持つことが出来たから・・・あの日はわたしの記念日となりました。
今は先生を慕う気持ちが募ります。またいつかお会いしたいです。


手紙を読んだ時 ぼくは恩田のブラジャー姿を思い出そうとしたが、全く思いだせなかった。そんな自分を恥じるばかりであった。