【G】
道草
白い朝
蹴り飛ばした
石を追う
電柱に
当たった石が
跳ね返り
草に紛れ込み
脚で草を
踏みながら
探していると
擦れ違う
新聞配達の
バイクが
音を立てて
通り過ぎた
新聞屋が
角を曲がると
道に屈み
草を掻き分け
朝露で湿る
袖口をめくり
幾つかの
小石を摘んでは
舗道へ投げ捨てた
見つからない石が
どんな石だったか
忘れかけた頃
何故
石を探す必要が
あるのか
疑問が残る
大切な物でも
ないだろう
つまらない事に
意地になるのは
僕の癖
くだらない時が
限りなく過ぎる
滑稽だと
笑われた意味を
知りながら
没頭してしまう
それだけ
目的もなく
ふらふらと
生きているのだろう
くわえた煙草に
火を点け
歩き出す
新鮮な空気を
汚して漂う
煙草の煙りが
愉快で
見捨てた石に
指先から
空気銃を撃つ
『バン』
幼稚な犯罪者は
誰にも尊敬されずに
勝ち誇り
軽快に辿る
家路まで
優越感に
浸る
ペンキの剥げた
階段の手摺りを
叩き
通路の手摺りに残る
雨の雫を
端から掻き集め
弾き飛ばす
茶色い鉄錆が
掌を彩り
匂いを嗅いで
舌先で舐める
血の味には
程遠いと
首を捻り
首から下げた
鍵を
シャツから
手繰り寄せ
玄関を開けた
静まり返る
部屋の中
軋む床を
音を立てずに
ゆっくりと
上がり
ガチガチに
閉め上げられた
台所の蛇口に
奮闘しながら
「馬鹿力め」
愚痴を零し
微量の水滴で
鉄錆を擦り落とす
中途半端に
閉められた
カーテンの隙間から
白い朝が
覗き込んでいた
生活感のない
アトリエ
溢れ返る
ガラクタに
埋もれた
おもちゃ箱
丘のように
盛り上がる
ベッドへ
攀じ登り
布団の中へ
潜り込む
寝息と同じ
リズムで
呼吸を刻む背中
そっと
頬を寄せる
極上の贅沢
くだらなく長い
一日がやっと
終わる
白い朝の
出来事