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紅装のドリームスイーパー

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 ドリームブレイカーから真っ白な蒸気が噴きだし、衝撃波となって尖兵を打ち砕く。一瞬にして百体ほどの尖兵が塵に還元されていく。それを見ていた山崎がヒューッと口笛を吹いて賞賛した。
「ほう、ドリームスイーパーになったばかりだというのに、もう戦いかたが板についてきたようだな」
 ルウがのんびりとした口調で感想をのべる。黒ネコはさっきからまったく戦っていない。尖兵の攻撃をスルリと回避して逃げまわり、あたしに敵を押しつけてくる。
「あなたも戦ったらどうなのよ!」
「私自身は戦えないんだよ。忘れたのかな?」
 ルウが連れてきた五体の敵をあたしは一撃で両断した。勢いあまって甲板に切っ先が激突し、ひとひとりがすっぽりと入れそうなほどの大きな孔をあけてしまう。その孔にはまって尖兵がジタバタともがく。あたしは尖兵の頭を剣でたたきつぶした。
「あなたってホントに役立たずね!」
「そうとも。そのためのドリームスイーパーだからな。しっかりと役目を果たしてくれたまえ」
 あたしは悪態をつく。もっと辛辣な言葉を投げつけてやろうかと思ったが、次々と繰りだしてくる尖兵があたしをにわかに忙しくさせた。黒ネコにかまっているヒマはない。
 あたしはがむしゃらにドリームブレイカーを振りまわした。そのたびに尖兵がごっそりと消える。あたしだけじゃない。葵も、フーミンも、ほかのファントムの連中も、たくさんの尖兵を始末したが、数の違いに圧倒され、徐々に甲板のすみへと追いやられていった。斃(たお)しても斃しても、尖兵の数が減らない。むしろ、増えていく一方だ。
 葵があたしのすぐそばまで来た。あたしと背中をくっつけて、周囲を囲む尖兵と対峙する。葵が唇をかみしめる。取り囲む尖兵をにらみつけた。
「切りがありません。このままではいずれ……」
 突如として、尖兵の包囲網の一角が崩れた。隙間ができて、そこからフーミンが押しだされてくる。まといつく黒い影を蹴飛ばして追い払う。それでもしつこく追いかけてくる敵に対してフーミンは歯をむき、手にしたライターを向けた。
「燃えちまいな!」
 まるで火炎放射器のように、真っ青な色の炎がライターから噴きだした。尖兵が炎に包まれ、燃えあがった。あっという間に数百体の尖兵が青い炎に呑みこまれ、音もなく溶けていく。フーミンがペッと甲板に唾を吐き捨てる。こんなときでもタバコを吸いたくなるらしい。手元に出現したタバコに、たったいま尖兵を焼きつくしたライターで火をつけ、じっくりと煙を味わう。あたしと葵の、半分あきれ返った視線に気づき、フーミンは口の端をゆがめた。
「なんだい、なんか言いたそうだね? はっきりと言ってごらんよ」
「敵の数が多すぎるな。予想以上だ」
 あたしたちに代わって、ルウが言わずもがなのことを口にする。
「これでは夢魔の要塞にたどりつけそうにもないぞ」
 確かにそうだけど、この状況で言うべきセリフじゃない。フーミンはもともと夢魔との戦いに乗り気じゃなかった。ルウの言葉に反発して協力関係を打ち切ったりしたらどうするつもりなんだろう?
 が、あたしの心配は取り越し苦労に終わった。
 フーミンが大口を開けて笑う。タバコを持った右手を頭上にかざして、船尾側の空を振り仰いだ。
「バカだね、あんたは。うちがなんの勝算もなくてここまでやって来ると思うのかい? 見なよ、あれを!」
 フーミンにつられてあたしは肩越しに空を見上げた。自分が目にしたものが信じられず、思わず短い叫び声を洩らした。
 ルウが「ほう」と感嘆の声をあげる。葵も目を丸くして顔を仰向けている。
 細長い、巨大な影が虚空のなかにたくさん浮かんでいた。半分に割ったラグビーボールのような船体、グロテスクな怪物を押し立てた船首像、何本も突きでた太い柱と白い帆。
 帆船だ。この船と同じような帆船の船団が、グングンとスピードをあげてこちらに近づいてくる。
 帆船の甲板には大勢の男女が鈴なりになって整列していた。ときの声をあげ、手にした武器を打ち振っている。
 まさか……彼らもファントム?
「援軍だよ。うちらの仲間さ」
 あたしの内心を読んだかのように、フーミンが得意げに告げる。再びあたしたちの周りを取り囲んだ尖兵たちをにらみまわして、不敵な笑みを浮かべた。
「数は負けるけどね、ひとりひとりがこいつらよりもずっと強いから不足分はカバーできるだろうさ。さあ、ここからが本番だよ。かかっておいでよ、雑魚どもが!」

 援軍の到着で形勢が一気に逆転した。
 尖兵が新たな敵の出現で算を乱す。戦力が分散し、一隻の帆船に群がってくる尖兵の数がグッと少なくなった。それでもファントムの数より尖兵の数のほうが何倍も多いが、ファントムはひとりひとりがまさしく一騎当千だ。尖兵を軽くあしらい、ムダのない動きで確実に打ち倒していく。さしもの尖兵も消耗に供給が追いつかない。
 あたしたちが乗る帆船の甲板にあれほどひしめいていた尖兵も数を減らし、分厚い壁のようだった包囲網が隙間だらけの輪になっていた。
 金太郎が笑いながら尖兵を引き裂いていく。殴りかかってきた尖兵を強烈なキックでかたづけて、やっと人心地がついたフーミンは、至近距離に近づいてきた夢魔の要塞をつぶさに観察した。
「あそこ。見えるかい」
 フーミンが指をさす。三体の尖兵を葬って当面の敵がいなくなったあたしは、フーミンの指のさきに視線を転じた。漆黒の太陽の表面はみがかれたようになめらかだったが、ところどころに亀裂が走っていた。その亀裂と亀裂が交わるところに、ぱっくりと口を開いた大きな孔があった。かなりの大きさだ。帆船がそのまま入っていくのはムリだが、幅が広いから船を横づけすれば十人以上が同時に要塞の内部へ侵入できる。
「ちょうどいいね。あそこからなかへ入ろう」
 フーミンが楽しげな口調で言う。ルウが首をかしげ、
「ほう、要塞への侵入も手伝ってくれるというのか?」
「中途半端なことは嫌いなんでね。うちらが手助けするのはそこまでだよ。あとはあんたらがやりな」
 帆船がわずかに方向転換して、開口部へと突き進んでいく。ほかの帆船もあとを追ってきた。暗黒星の表面からはいまも無数の尖兵が飛びだしてくるが、帆船のスピードに追いついてこられない。突進する船体が尖兵の群れを強引に押しのけ、左右に弾き飛ばす。甲板に喰いついてきた尖兵はあたしたちとファントムとで退治した。
 黒い太陽の表面がすぐ目の前にせまってきた。このままのスピードだと衝突する、と思った瞬間、慣性の法則を無視して帆船が開口部のすぐ下にピタリと静止し、船体を横づけする。
「行くよ、みんな!」
 フーミンを先頭に、ファントムが舷側の手すりを乗り越えて、真っ黒な要塞の開口部へとなだれこんでいく。
「葵、あたしたちも行くよ!」
「はい!」
 あたしと葵はファントムの後ろからついていった。ルウが高くジャンプして、あたしの肩に飛び乗る。ゴロゴロと喉を鳴らしている。まるでいたぶる獲物を見つけたネコそのものだ。