紅装のドリームスイーパー
そうした人生の物語を、家族ではない誰かに語って聞かせたかったのかもしれない。自分が生きてきたあかしとして。
おれはそれに応えた。なんでもないことだったけど、幸恵さんを満足させていたと思う。だから、沙綾さんが「ありがとう」と感謝の言葉を口にしてくれたのだ。
こんなおれでもできることはある。それを認めてくれるひとがいる。なんでもないことでも、誰かの力になってやれる。
だったら、花鈴のことだって……どうにかできるはずだ。浩平なんかにジャマされることなく。
悪い夢ばかり見ているようだ、と花鈴の母親は言っていた。花鈴自身も、それをにおわせるようなことを口にしていた。
夢。葵とルウのことが思い浮かんだ。夢魔と戦うドリームスイーパー。まるで特撮ヒーローみたいな、夢の世界で活躍する正義の味方。ドリームスイーパーになってみんなの夢を夢魔から守りたい、という漠然とした思いもあったが、それ以上におれの気持ちを駆りたてていたのは花鈴のことだった。
花鈴の悪夢と夢魔とのあいだには、なにかしら関係があるのかもしれない。夢魔を斃(たお)せば、あるいは花鈴の悪夢も晴れるのではないかと思った。それに……ひとりで夢魔と戦う葵のことを放っておけない。
花鈴に沙綾さんに葵──ずいぶん欲張りだな、と自分でも半分あきれてしまう。なにもできないくせに、と嘲弄する意地の悪い声が心のなかでうつろに響く。
だけれど、こんなおれにもできることがある──たったいま、そう悟ったばかりだ。
迷うな。まえへ進むことだけを考えろ。
あれがただの夢なのかどうか、もうすぐわかる。今夜も同じ夢を見れば──葵とルウは夢なんかじゃない。いや、夢のなかにいるけれど、彼らは現実の存在だ。葵はおれと同じく、この現実世界のどこかで生きている生身の人間なのだ。
迷うな。後悔したくなかったら──ひたすらまえを向け。
作品名:紅装のドリームスイーパー 作家名:那由他