シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 -
そう言って、深々と頭を下げた。今までいろんな先生を見てきたが、こんな先生は、いや こんな大人は初めてだった。
「岩田先生。君も謝りなさい」
「い、いや校長。しかしですねぇ。」
「私が謝れと言ったら謝れ! それが今までの君の理屈だろう!」
「す、すまなかった……」
俺達四人は、視線でハイタッチした。
「じつは、もうひとつ君達に話さないといけない事があるんです。」
「ナナさんの事なんですが、お母さんのご実家で……。つまり、お爺ちゃんお婆ちゃんと四人で 暮らされる事になりました」
「転校ってことですか? こないだ引っ越してきたばっかりなのに」
ミサコが聞いた。
「はい。皆さんは寂しいでしょうが、ナナさんとお母さんが 今より長く一緒にいられるには、それが一番の方法だそうです」
そう言われては、納得するしかなかった。
「いつですか?校長先生!」
「それが、少しでも早くやり直したいと言うお母さんのご希望で、来週の日曜日と聞いています」
「えぇ!」
あまりの急な話に驚く俺達に向かって、校長は続けた。
「だから皆さんは、ナナさんを見送って来てあげてくださいね。駅までの車は、岩田先生が出してくれるそうですから」
いたずらっぽい顔をつくって俺達を見てから、校長がジャカルタに目線をやった。
「それでは、私からは以上です。皆さんご苦労様でした、教室に戻ってください」
「はい!」
教室に戻った俺達は ヒーローのように皆から質問攻めにあったが、ナナの引越しの話を聞いた後では 寂しさが増す話題でしかなかった。
そして引越し当日。仏頂面で運転するジャカルタの車に揺られ、俺達は駅に到着した。
カコとミサコ、それにツヨっさんまでが、ナナにプレゼントを用意して来ていた。俺だけが 手ぶらだった。
「うわぁ!やったね。ありがとう!」
ナナは嬉しそうに はしゃいでみせた。
お母さんにもお礼を言われ、そろそろ汽車の出発時刻も近づいた頃、ナナがゴソゴソとポケットから何かを出した。
「はい、お兄ちゃん!」
箱に入った、ゴロピカドンのバンソウ膏だった。
「お、俺に!?」
「うん! だってお兄ちゃん、いっつも 怪我してるでしょ」
「そっかぁ、ありがとな。こんだけあれば、毎日ケンカしても平気やな」
「ダメだよ、ケンカばっかりしちゃあ。」
「ええなぁ シマダイ! 手ぶらで来たのに。カコが妬いてるで!」
「ミサコうるさい!!」
カコとハモった。寂しさを消すように、ナナが元気に出発できるように、俺達は大笑いした。
〈ピルルルルルルルルル……〉
発車のベルが鳴る。ナナ達はすで汽車に乗り込み、窓からこちらに手を振っている。
カコとミサコの目は 涙でもう真っ赤だ。ツヨっさんの顔は、さらにグシャグシャだった。
そして俺は、あの日貼れなかった ゴロピカドンのバンソウ膏を、一番目立つ 鼻の頭に貼った。
汽車が動き出す。
「ナナーー! 見えるかーーー! これありがとなーーー!!
ケチャップライス食いたくなったら、いつでも戻って来いよーーー!!
今度は卵でくるんで、オムライスにしちゃるでなぁーーーーーーー!!」
家に帰ったら オカンに頼んで、オムライスの特訓をしよう。
ナナが この街に、いつ帰って来ても いいように……。
作品名:シマダイ! - あの日の しゃーたれっ子 - 作家名:daima