詩篇天竺浪人
鎮魂
冬ざれの浜に人影ふたつ
母は娘の手をひいた
東雲(しののめ)の空はあかあか明けて
それでも凍える雪もよい
海辺をのぞむ公園に
真新しき慰霊碑ひとつ
娘が直感したようだ
今日は何かあるらしい
吾子(あこ)よ、吾子あこよ、ごらんなさい
見はるかす
冬なぎの海に波あと残すは
すけとうだらのトロール船か
さなくば海保の巡視艇か
陸奥のおくにの国分寺(こくぶじ)に
鐘がなるなる
ひとつ、ふたつ、みっつ
彼岸会まつる石灯籠にも
火がともるよ
ひとつ、ふたつ、みっつ
ときは無音(ぶいん)にうち過ぎて
表日本は安らかなれど
浜のチドリは覚えていよう
水魔が根こそぎ浚った今日を
母娘(ははこ)がそっと目をとじた
願わくば
鎮魂のいのり
粛々と
天までのぼれ
青葉山の古城をこえて
十万億のかなたまで