名無しの明日
駅に到着すると新幹線が来るのは一時間半後だということなので、親から大金をもらったにも関わらず、鈍行を乗り継いで行くことにした。もう夜中なので、車内は静かだ。どこからか、寝息のようなものも聞こえる。さっきまでの喧騒がうそのように二人でドアにもたれて窓の外を見ていた。
「……眠くないの?」
「うん。まだ心臓バクバクいってるんだけど」
そして二人で、はは、と小さく笑った。
宿原はタンタンとブーツのつま先でリズムをとりながら鼻歌を歌っている。
「それ、何の曲?」
「いや、自作。歌ってないと忘れそうで」
俺も合わせてふんふん歌ってみる。いいメロディだ。すると次々に言葉が浮かんできた。メモ帳を開いて
速攻で書き留める。
「何、どうしたの?」
「作詞。今の曲で思いついた」
歌ってみせてよ、とせがまれたので小さく口ずさんでみる。
『夜の風 僕らを乗せて 知らない街へと運ぶよ
眠れずに 夜通し朝日 急かして
扉が開くのを ただ 待っている……』