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ふしじろ もひと
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『遥かなる海辺より』第2章:ルヴァーンの手紙

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 それが憂いの正体だったのだ。話だけ聞けば人間でもうら若い乙女などにありがちな、他愛もない憂愁に過ぎないものとすら思えそうなことだった。けれどもそれが千年を生きる人魚の憂いであるがゆえに、これほど深い翳りとして感じられるものになっているのは明らかだった。彼女の話を聞いている間も、その麗しい声が、そして神秘の力がその心を伝えてやまず、私の魂は数百年を大海原で漂い過ごしたものの絶望的な孤愁にまともに晒されていたのだから。
 いまや私は人魚の歌が惑わしの歌と伝えられた理由を悟った。彼らが種族の滅びにさえ思いを馳せて歌うとしたら、人間の身で受け止められるものになどなるはずがなかった。たとえ舟が波に呑まれずとも剥き出しの心は大海のごとき孤愁に沈み、魂は岩に打ち寄せられた舟底さながらに砕けるほかなかっただろう。己が手を出そうとしていたものがなんだったかを知り、私は身震いを禁じ得なかった。
 そして同時に、私は深く恥じ入った。胸破るようにして歌わずにいられぬ人魚に対し、はたして私にはそれほどまでに歌いあげたいものがあっただろうかと。あふれるばかりの心の思いをその身に可能な手段を駆使して歌い上げる彼らから、手段だけまねて私は一体どうするつもりだったのかと。己の浅はかさがただただ恥ずかしかった。

 だがそんな私の心にも、いまや一つの思いが宿っていた。