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遙かなる流れ

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 上の弟は高校を卒業すると東京の大手の電機メーカーの関連会社に就職しました。その大手の会社のグループ企業で主に金融関係を扱う会社でした。
 東京へ出て行く時に私と下の弟は青森駅まで見送りに来ていました。
「向こうは陽気も何もかも違うから気をつけるんだよ」
 そう言う私に弟は
「大丈夫だよ、そんなヘマはしないから。それより高俊の事頼むな」
弟は高校でもトップクラスの成績でしたから、先生からも進学するように言われたのですが、『先生、俺は勉強が嫌いだから就職しますよ』そう言って進学しなかったのです。
 でも本当はそうじゃないのを私だけに打ち明けました。
「俺は勉強しても、そう大した者にはならないけど、高俊は違う。あいつは本当に出来る頭を持っているから、あいつだけは進学させて欲しいんだ」
 就職すると決めた晩に私にそう言ったのです。県下でも一番の青森高校で常に十番以内に入っている者がなんで、大した事が無いのでしょう……弟はそう言う奴なのです。
「出来たら仕送りするから」
 そう言い残して弟は旅だって行きました。この春には妹が高校に進み学費の支払いも増えて来たこのごろだったのです。
「兄貴!」
 中学3年の高俊は短くそう叫ぶと兄の手を堅く握りました。
「青高行って東大でもめざせ!」
 そう言い残して車上の人になりました。その後、私は父が亡くなるまで弟に会う事はありませんでした。

 父は相変わらず女の所に入り浸りになっています。家に入れてくれるお金も以前ほど多くはありません。必然的に私の洋裁の仕事も増えて行きます。私もいつの間にか二十歳を過ぎていました。せめてもと、近くの写真館で簡単なポートレートを撮って貰いました。これだけが私の青春の記録となりました。
 翌年、下の弟、高俊が青森高校に入りました。なんでも創立以来の試験の成績だったそうです。でも、弟はなんでもない様な顔をしていました。
 私相変わらず、洋裁に明け暮れています。妹も高校三年になり、早々と就職を決めてしまいました。
「何処に決まったの?」
 そう言う私の問いに妹は
「青森銀行よ。父さんの顔が利いたみたい」
 そう言って笑っていました。どうやら、父の知り合いに青森銀行の人が居て、それもかなり地位の上の人だったみたいです。
何でも『あそこの家だったら間違いは無いし成績も優秀なはずだ』と言ってくれたそうです。
 それ自身は間違いはありませんですが……父もたまには子供孝行するのかと思ったものでした。
 暫くは何も無く日常が過ぎて行きました。ある日、近所の人から
「高俊くん、この前囲碁倶楽部で見かけたけど、囲碁好きなんだね」
 そう言う話でした。それからも何回か違う話を別な人から聞きました。中には
「なんか賭碁してたみたいだぞ」なんて言う人もいました。
 私は穏やかではありませんでした。大人しかった弟がまさか賭碁をするなんて……
 私はある日、弟に問いつめてみました。
「高俊、あなた賭碁をしてるって噂があるけど本当なの?」
 その私の問いかけに弟は
「してるよ。向こうから申し込まれた時だけね」
「なんで、そんな事を……」
「だって、勝てば小遣いになるし、囲碁は好きだからね」
「賭なんて違反でしょう!」
「姉さん、囲碁倶楽部じゃみんなやってるよ。お巡りさんだって仕事じゃ無い時に来て僕とやるんだよ」
 私がいくら言っても弟は聞く耳を持ちませんでした。後で分かったのですが、弟は囲碁倶楽部のほかにも将棋倶楽部でも賭将棋をしていたのです。ここでも負けなしで、ちょっとした話題になっていたのです。
 ある日私は弟に、もう決してやってはいけない事を言い、約束させました。その時の弟の言いぐさは
「もういいや、随分稼いだからアルバイトより効率がよかったからやっていたのだから、もうやめるよ」
 そう言って、辞めたのでした。
 その後弟は東大を諦めて弘前大学へ進学します。それは、その頃から父の具合が悪くなって来たからでした。
 お医者さんい見て貰った処、肝硬変と診断されました。この日から私には父の介護という仕事も増えたのです。

作品名:遙かなる流れ 作家名:まんぼう