レイドリフト・ドラゴンメイド 第24話 受難者たち
重さが10・4トンある達美専用車が揺れた。明らかに爆発から発した振動で。
それを感じたカーリタースは、叫んだ。
「お、オルバイファ――ムグ」
オルバイファス。それはテニス部の部長の名前だった。
しかも、怯えた響きを持って。
シエロは、とっさに口をふさぎ、その声を止めた。
だが、彼の怯えをとがめる気にはならなかった。
「オルバさんですか? 」
ワイバーンは平然と、しかも親しげに名を縮めて言った。
「彼が、どうかしまし――ムグ」
次の瞬間、青ざめた顔の1号に口をふさがれるまでは。
チェ連人達は思った。
(これもレイドリフト・ワイバーン=鷲矢 武志のいびつで不思議な部分だ)
そんなワイバーンも、1号からひそひそと語られ、事情を察したらしい。
「今の爆音ですか?
スーパーディスパイズによる作業が始まった音です。
ポルタを拡大して固定して、量子世界の中枢までのルートを確保する作業ですよ」
それでも、少しも緊張した様子がない。
オルバイファス。
3年A組。テニス部部長。
性格はリーダーシップにあふれ、男性的。
リーダーシップある男性と言えば、生徒会副会長である石元 巌もそう思われている。
だが、両者のそれは方向性が違う。
巌のそれは「仲間の負担にはならないぞ! 」という鍛え方で、物事を決める時も皆の意見を聞き、穏やかに進めるタイプ。
オルバイファスは、「我こそ最強! 」自ら先頭に立ち、銃弾の雨でも迷わず進撃するタイプだ。
そして、最大の違いは、オルバイファスは宇宙からやって来た金属生命体という点だ。
20年前、地球へ宇宙傭兵団として招かれてやってきた。
自身がリーダーを務める、オルバイファス・ソリューション。
フーリヤやノーチアサンは、その時の部下だ。
現在は休業して学生になっている。
そしてオルバイファス・ソリューションは、株式をルルディ王国に売り払い、国営企業化している。
今のところは。
『こちらオルバイファス。ネットワーク派ヒーローの臨時幕僚部は、こちらかな? 』
立体映像に映されたアイコンは、粗削りした岩石のように見える。
金属生命体特有の顔だが、形は人間に似ている。
がっちりした顎に、分厚い唇。団子鼻。鋭い目。そしてゴツゴツしたヘルメットのような頭部。
そして落ち着いた低い声。
「ひっ! 」
カーリタースの喉が、変な声を上げた。
今度はシエロも止められなかった。
カーリタースはあわてて口をおさえるが、あとの祭りだ。
『シエロ、カーリ、恐れることはない。
と言っても、難しいのだろうな』
オルバイファスの声には、後悔が滲んでいた。
チェ連人は、魔術学園高等部生徒会と言われると、真っ先にオルバイファスを思い浮かべる。
召喚された生徒会は、突如フセン市の街中に飛ばされた。
現れた生徒会に対し、チェ連人はパニックに陥った。
また異星人からの侵略だと思ったのだ。
事情を知らない、というより、知ろうともしない地域防衛隊が攻撃した。
その時足を撃たれたのが城戸 智慧。腕を失ったのがユウ メイメイだ。
真っ先に反撃したのが、オルバイファスだった。
その巨体から放たれた戦力は、チェ連側の常識をも超えていた。
主力兵器の武装トラックも、数少ない装甲車両も、紙屑のように飛ばす蹴りと拳。
内蔵火器は多様で、瞬く間にあたりを火の海に変えた。
その間にノーチアサンが、空中戦艦としての機能を回復させた。
生徒会はノーチアサンに乗り込み、一時空中へと去った。
チェ連側はなおも追撃した。
だが、その日付が変わるころ、すべての兵器は沈黙している。
チェ連が弾丸も砲弾も使い切ったのだ。
それをさせたのがオルバイファスと、彼を慕う元部下や異能者だ。
そして彼自身の戦いぶりから、オルバイファスは「黒い巨神」と言われ、生徒会の印象となった。
「その様子ですと、状況は安定したようですね」
ワイバーンが見るフセン市の地図には、もはや敵と味方は大きく離れている。
上空からドローンが撮影した映像にも、映るのは逃げ惑うチェ連兵だ。
『当たり前だ。そちらで確認できないのか? 』
オルバイファスに面倒くさそうに言われたが。
「どんなセンサーにも死角が必ずある。それが僕の持ち味です」
それでも、ワイバーンは失礼ともいわれかねない事を言う。
つぎに、視線をシエロとカーリに移した。
「どうやら紹介は必要ないようですね。
いったい、何のご用でしょうか? 」
『ああ城戸が、面白そうなことをやっていると聞いたので、我も手伝おうと――』思ったのだ。と言うつもりだったのだ。
「わ~い。タケく~ん!! 」
突然、車の前方へつながるドアが開いた。
そこから飛び出したのは、真脇 達美。レイドリフト・ドラゴンメイドその人、いやネコだ。
表情は明るく、目は爛々と輝いている。
電光石火の早業。鷲矢 武志=ワイバーンは、椅子から立つ間もなく、膝に達美を受け止めるしかなかった。
達美は懐に飛び込むと頬を摺り寄せ、両手両足で抱きしめる。
「うわ! 達美ちゃん当ててるの!? 」
「当然! 」
そうだ。彼女は今、歓喜の表情で体を押しあて、揺らしている。
きている服も私服に変わっている。
黒いレザー製のコートは、へその上まで。
ワインレッドのチューブトップは胸元まで。
同じく黒いレザーパンツは、右足にはぴっちりフィット。左足は付け根まで見せている。
後からでた赤い尾は、そそりたっている。機嫌がいい証拠だ。
すねまで守るブラウンのジャングルブーツ。
ワイバーンの膝に飛びのった達美は、彼のマスクをつかんだ。
こめかみあたりにあるマスクとゴーグルを支えるレールが、ギシギシ音を上げる。
「チュー。チュー」
くちづけを強行しようというのだ。
「折れ曲がるよ」
困惑しながらもうれしそうなワイバーン。その手は優しく達美の背に回されている。
達美はマスクを持ち上げるのは諦めた。
代わりに、装甲のない首元に甘噛みする。
「やめて、恥ずかしいよ」
そう言いつつも、ワイバーンの声には穏やかで安心した響きがある。
達美は聞く耳をもたない。
猫耳を喜びでピンと立て、続いて彼の耳にしゃぶりついた。
『見ていなさい。日本人が武器を振り回したところで、侍になるわけではない』
侍の話。
生徒会から聞いた話だ。やけに胸につきささる。
(侍。昔の日本にいたという、戦闘をつかさどる貴族階級。たしか、武士道という厳しい思想により、常に自らを律したとか)
確かに、そんな精悍さは抱きあう2人からは感じない。
見ていると興奮しすぎて頭がくらくらする。
そんな中で、2人は他の顔を確認してみた。
皆、目が点になっていた。
(良かった。僕らだけじゃない)
「こ、子供は見ちゃダメだ! 」
アウグルは、必死でランナフォン=娘の編美を捕まえようとする。
「え~? わたしは、もっと見たいです」
編美=オウルロードの立体映像は、逃げるランナフォンに合わせて左右に揺れる。
そのフクロウを模した銀の兜には、奥ににやけた目があった。
『相変わらず仲がいいな』
それを感じたカーリタースは、叫んだ。
「お、オルバイファ――ムグ」
オルバイファス。それはテニス部の部長の名前だった。
しかも、怯えた響きを持って。
シエロは、とっさに口をふさぎ、その声を止めた。
だが、彼の怯えをとがめる気にはならなかった。
「オルバさんですか? 」
ワイバーンは平然と、しかも親しげに名を縮めて言った。
「彼が、どうかしまし――ムグ」
次の瞬間、青ざめた顔の1号に口をふさがれるまでは。
チェ連人達は思った。
(これもレイドリフト・ワイバーン=鷲矢 武志のいびつで不思議な部分だ)
そんなワイバーンも、1号からひそひそと語られ、事情を察したらしい。
「今の爆音ですか?
スーパーディスパイズによる作業が始まった音です。
ポルタを拡大して固定して、量子世界の中枢までのルートを確保する作業ですよ」
それでも、少しも緊張した様子がない。
オルバイファス。
3年A組。テニス部部長。
性格はリーダーシップにあふれ、男性的。
リーダーシップある男性と言えば、生徒会副会長である石元 巌もそう思われている。
だが、両者のそれは方向性が違う。
巌のそれは「仲間の負担にはならないぞ! 」という鍛え方で、物事を決める時も皆の意見を聞き、穏やかに進めるタイプ。
オルバイファスは、「我こそ最強! 」自ら先頭に立ち、銃弾の雨でも迷わず進撃するタイプだ。
そして、最大の違いは、オルバイファスは宇宙からやって来た金属生命体という点だ。
20年前、地球へ宇宙傭兵団として招かれてやってきた。
自身がリーダーを務める、オルバイファス・ソリューション。
フーリヤやノーチアサンは、その時の部下だ。
現在は休業して学生になっている。
そしてオルバイファス・ソリューションは、株式をルルディ王国に売り払い、国営企業化している。
今のところは。
『こちらオルバイファス。ネットワーク派ヒーローの臨時幕僚部は、こちらかな? 』
立体映像に映されたアイコンは、粗削りした岩石のように見える。
金属生命体特有の顔だが、形は人間に似ている。
がっちりした顎に、分厚い唇。団子鼻。鋭い目。そしてゴツゴツしたヘルメットのような頭部。
そして落ち着いた低い声。
「ひっ! 」
カーリタースの喉が、変な声を上げた。
今度はシエロも止められなかった。
カーリタースはあわてて口をおさえるが、あとの祭りだ。
『シエロ、カーリ、恐れることはない。
と言っても、難しいのだろうな』
オルバイファスの声には、後悔が滲んでいた。
チェ連人は、魔術学園高等部生徒会と言われると、真っ先にオルバイファスを思い浮かべる。
召喚された生徒会は、突如フセン市の街中に飛ばされた。
現れた生徒会に対し、チェ連人はパニックに陥った。
また異星人からの侵略だと思ったのだ。
事情を知らない、というより、知ろうともしない地域防衛隊が攻撃した。
その時足を撃たれたのが城戸 智慧。腕を失ったのがユウ メイメイだ。
真っ先に反撃したのが、オルバイファスだった。
その巨体から放たれた戦力は、チェ連側の常識をも超えていた。
主力兵器の武装トラックも、数少ない装甲車両も、紙屑のように飛ばす蹴りと拳。
内蔵火器は多様で、瞬く間にあたりを火の海に変えた。
その間にノーチアサンが、空中戦艦としての機能を回復させた。
生徒会はノーチアサンに乗り込み、一時空中へと去った。
チェ連側はなおも追撃した。
だが、その日付が変わるころ、すべての兵器は沈黙している。
チェ連が弾丸も砲弾も使い切ったのだ。
それをさせたのがオルバイファスと、彼を慕う元部下や異能者だ。
そして彼自身の戦いぶりから、オルバイファスは「黒い巨神」と言われ、生徒会の印象となった。
「その様子ですと、状況は安定したようですね」
ワイバーンが見るフセン市の地図には、もはや敵と味方は大きく離れている。
上空からドローンが撮影した映像にも、映るのは逃げ惑うチェ連兵だ。
『当たり前だ。そちらで確認できないのか? 』
オルバイファスに面倒くさそうに言われたが。
「どんなセンサーにも死角が必ずある。それが僕の持ち味です」
それでも、ワイバーンは失礼ともいわれかねない事を言う。
つぎに、視線をシエロとカーリに移した。
「どうやら紹介は必要ないようですね。
いったい、何のご用でしょうか? 」
『ああ城戸が、面白そうなことをやっていると聞いたので、我も手伝おうと――』思ったのだ。と言うつもりだったのだ。
「わ~い。タケく~ん!! 」
突然、車の前方へつながるドアが開いた。
そこから飛び出したのは、真脇 達美。レイドリフト・ドラゴンメイドその人、いやネコだ。
表情は明るく、目は爛々と輝いている。
電光石火の早業。鷲矢 武志=ワイバーンは、椅子から立つ間もなく、膝に達美を受け止めるしかなかった。
達美は懐に飛び込むと頬を摺り寄せ、両手両足で抱きしめる。
「うわ! 達美ちゃん当ててるの!? 」
「当然! 」
そうだ。彼女は今、歓喜の表情で体を押しあて、揺らしている。
きている服も私服に変わっている。
黒いレザー製のコートは、へその上まで。
ワインレッドのチューブトップは胸元まで。
同じく黒いレザーパンツは、右足にはぴっちりフィット。左足は付け根まで見せている。
後からでた赤い尾は、そそりたっている。機嫌がいい証拠だ。
すねまで守るブラウンのジャングルブーツ。
ワイバーンの膝に飛びのった達美は、彼のマスクをつかんだ。
こめかみあたりにあるマスクとゴーグルを支えるレールが、ギシギシ音を上げる。
「チュー。チュー」
くちづけを強行しようというのだ。
「折れ曲がるよ」
困惑しながらもうれしそうなワイバーン。その手は優しく達美の背に回されている。
達美はマスクを持ち上げるのは諦めた。
代わりに、装甲のない首元に甘噛みする。
「やめて、恥ずかしいよ」
そう言いつつも、ワイバーンの声には穏やかで安心した響きがある。
達美は聞く耳をもたない。
猫耳を喜びでピンと立て、続いて彼の耳にしゃぶりついた。
『見ていなさい。日本人が武器を振り回したところで、侍になるわけではない』
侍の話。
生徒会から聞いた話だ。やけに胸につきささる。
(侍。昔の日本にいたという、戦闘をつかさどる貴族階級。たしか、武士道という厳しい思想により、常に自らを律したとか)
確かに、そんな精悍さは抱きあう2人からは感じない。
見ていると興奮しすぎて頭がくらくらする。
そんな中で、2人は他の顔を確認してみた。
皆、目が点になっていた。
(良かった。僕らだけじゃない)
「こ、子供は見ちゃダメだ! 」
アウグルは、必死でランナフォン=娘の編美を捕まえようとする。
「え~? わたしは、もっと見たいです」
編美=オウルロードの立体映像は、逃げるランナフォンに合わせて左右に揺れる。
そのフクロウを模した銀の兜には、奥ににやけた目があった。
『相変わらず仲がいいな』
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第24話 受難者たち 作家名:リューガ