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ポチと僕

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 シェリーも納得して再び遠くを見ると、どうやら二人がやって来た様だった。
「ほら来たよ。これで大丈夫だ」
 ポチは自分の役目が終わった事を感じたのだった。

 その後、警察に保護され少女は保護者の元に帰された。少女は、私立中学に入る様に親に煩く言われており、一生懸命勉強していたが、今回のテストで志望校の合格ランクがAからCに落ちてしまったので悲観して、とっさに行動してしまったのだと言う。
 普段から親の期待を感じ過ぎていた為だった。塾からも、今回だけの成績では参考にならないから充分に合格圏内だからと言われて落ちついた様だ。

「でも何も無くて良かったわね。そしてポチ、大活躍だったわね。シェリーとのコンビ見事だったわ」
 事件が解決して、お姉さんはポチを家に上げて家族皆の前で褒めている。
「あんたもシェリーも会話が出来るから、意志の疎通が図れて上手く行くとわたしは思っていたのよ」
 突然のお姉さんの言葉にポチは唖然とした。驚きで声が出せず口をパクパクさせていると
「ふうん。相当驚いた感じね。言葉を話せるとわたしが知っていて驚いた?」
 そう言いながら笑っているお姉さんだ。
「知っていたのですか!」
 やっと声が出た。
「当たり前じゃない、隆とお父さんしか知らないと思っていたの? あんたも可愛いわね。とっくに気がついていましたよ」
 お姉さんの目が優しく笑う。
「私は全く知りませんでした。じゃあお母さんも知っていたのですか?」
 それを聴いてお母さんが
「うん、知っていたわよ。でもあなたが必死で隠してるから、可哀想だから今まで黙っていたの。お姉ちゃんとも相談してね」
 お母さんの表情も優しく見える。
「でも、なんで……」
「それはね。あなたは大切な家族だからよ。大事な大事な家族なの、だからその気持を尊重したのよ。判った?」
 お母さんの言葉を聴いてポチは嬉し泣きと言う事があると初めて実感した。
 え? 犬が涙を流すかって。欠伸の時は流すでしょう。だから涙を流すんです。世間の犬は流さなくてもポチは特別なのです。

「ポチ、今夜、わたしと一緒にお風呂に入ろうよ。隅々まで洗ってあげるから」
「え、お姉さんとですか……」
「何なの、嫌なの?」
「いいえ、そう言う訳では……」
「はい! 決まり。寒い晩は温まるんだぞ!」
 お姉さんの言葉を聴きながらポチは、お風呂に入るのも、たまには悪く無いかもと思うのだった。

 その後、今日の夕方の散歩は隆くんがリードを引き、一緒にお父さんがついて来てくれていた。
「こんなの初めてですね。どうしたんですか?」
 ポチは二人だけに判る様に話しかけるとお父さんが
「おいおい、表ではあまり喋るなよ。『話せる犬』なんて事が判ったら、お前マスコミに忙殺されてしまうぞ。長生きしたかったら表で喋る時は気をつけろよ」
 そう言って心配してくれた。ポチはその気持も嬉しかった。酷い飼い主なら金儲けを考えるのだろうが、お父さんは微塵もそんな事は考えていないのだと思った。

 やがて何時もの公園に着くと、隆くんがリードを外してくれた。ポチは広い公園を思い切り走る。
 なんだかんだと言うけれど、やはり自分は犬なのだとポチは思う。ならば犬の本分を一生懸命に生きるだけだと思うのだった。
「ポチ、今日はボールを持って来たから、これで遊ぼう」
 隆くんが懐から真っ赤なビニールのボールを出してポチを誘う。
「ワンワン」と答えるポチ。
 隆くんがボールを投げてポチが追いかけるのだが、何回も追ってるうちに、ポチは追いかけてるのが赤いボールだか夕日だか判らなくなってきた。
 大好きなお父さんとお母さん。それにお姉さんや隆くんと一緒に暮らせれば、もう望むものはなかった。
「僕は世界で一番幸せな犬かもしれない」
 そっと呟いてみたポチだった。


   了
作品名:ポチと僕 作家名:まんぼう