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ポチと僕

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4.お父さんといつまでも



 十二月になると木枯らしがこの街にも吹き始める。ポチは風が嫌いではなかったが、やはり暖かい方が好きだ。
 もうすぐ、庭にある小さな池にも氷が張るだろうと思うとポチは犬小屋の中でうずくまるのだった。
 土曜とか日曜は朝の散歩にお父さんがする事がある。ポチはそう言う日がとても楽しみだ。何故なら、ポチのランクではこの家の一番はお父さんだからだ。
 12月のある日曜日のこと
「ポチ、行くぞ」
 お父さんは短く言うだけでポチには判る。その一言を聞くだけで自分でリードを咥えるのだそれを見たお父さんはニヤリと笑い、鎖とリードを付け替える。
「よし!これで大丈夫だ」
 その声を待っていた様にポチは歩き出す。でもそれはお父さんの歩調を超えないものだった。
 途中で、今日も霧島シェリーに出会った。
「おはよう」
「あら、おはよう」
 簡単に声を交わす。
 今日はシェリーは何時もの青年ではなく、高校生の様な女の子だった。もしかしたら、妹なのかも知れないとポチは思い
『今度訊いてみよう』
 心で思うのだった。

 もう日の出もめっきりと遅くなった。それはそうだ、月末には冬至がやって来る。
「雪でも降らないかな?」
 ポチは空をみながらそう思うのだった。それを見ていたお父さんは
「どうした? 雪でも恋しいのか?」
 そう看破されてしまった。全くお父さんには叶わないと思うポチだった。
 一回りして何時もの公園にやって来る。リードを外して貰い、公園を駆けまわる。
 走りながらも公園に誰か入って来たら、すぐお父さんの元に帰る積りなのだ。やがて、ポチは気が済んだのかお父さんの元へ帰って来た。
 ハッハツと白い息を吐いている。それでもポチは嬉しそうだ。
「どうした? 今日はやけに嬉しそうじゃ無いか?」
 そうお父さんがポチに訊くとポチは
「それはそうですよ。お父さんが散歩に連れて行ってくれるのは滅多にありませんからね」
 そう答えるとお父さんは
「そうか、それは悪かったな。今度はもっと機会を増やそうか」
 そう言ってポチの耳の後ろを優しく撫でる。ポチはそこが気持ち良いのだ。
「お前、いい顔してるぞ」
 そうお父さんに言われてポチは満更でも無い様に
「そう言われると特に嬉しいです」
 そう言ってお父さんの傍に座り込んだ。
 ポチはお父さんを見上げながら
「でも、お父さんはどうして、犬が実は話せるって知っていたのですか?」
 ポチはそれが何時も不思議だったのだ。
 幼い頃から話掛けられ、何時の間にか話せる様になったが、お父さんはまるで自分の子に話掛ける様に語りかけてきたのだった。
「そりゃ、当たり前だよ。私が子供の頃飼っていた犬が、実は犬は言葉が話せると教えてくれたからさ」
 そうお父さんは言って遠くを見つめた。
「最初は驚いたでしょう?」
 そうポチが訊くとお父さんは
「まあ、正直言うと、常々そうなったら良いな、と思っていたから、驚きよりも嬉しかった方が強かったな」
 それを聞いてポチは、心の底からこの家の飼い犬になって良かったと思うのだった。
「お父さんはずっと犬を飼っていたのですか?」
 これもポチが訊いて見たかった事だった。
「そうだな、途中結婚してアパート暮らしをした時は飼えなかったけどな。他は何時も飼っていたな」
 お父さんはポチの顔を見てそう言った。
「そうですか、自分は何番目なのですかね?」
「気になるのか?」
「ええ、ちょっとね……」
 お父さんはそれを訊いて、指折り数えていたが、やがて
「4匹目かな。結構うちにいた犬は長生きだからな」
「そうですか、四番目かぁ」
「どうした?」
 ふと寂しそうな顔をしたポチにお父さんは尋ねて見る
「いやね、私が死んだら、今度はどういう犬を飼うのか、と思いましてね」
 ポチがちょっと恥ずかしげにそう言うとお父さんは
「じゃあ、生まれ変わってまたウチに来たら良いよ」
 そう言ってポチを優しく撫でた。
「そうか……そうですね。また飼われましょうか、飼ってくれますか?」
「当たり前だろう! そんな事訊くなよ」
 その時のお父さんの優しげな目がポチは忘れられなかった。
「そうだ!生まれ変わってもこの家で飼って貰おう、ずっと、ずっと……」
 そう心に決めたのだった。

 やがて、冬の太陽が登り出し、家々を照らし始める。
「帰るか? 帰ってメシにしよう!」
 お父さんがそうポチに語りかけるとポチも「ワン!」と一声吠えて嬉しそうに尾を振る。
 リードを付けて貰い、家路に付く二人だった……その後ろ姿を、柔らかな冬の朝日が照らしていた。

作品名:ポチと僕 作家名:まんぼう