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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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あなたが残した愛の音。

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プロローグ



「ぇえ? こんな高そうな店、いいんですかあ?」

笑顔でわざとらしく聞く女性。

「こんなとこでもランチブッフェは、意外にリーズナブルだよ」

エスコートに慣れた紳士。


 ホテルの37階にあるレストラン。普段見ることのない角度から、見下ろす街の風景は新鮮である。
 博之はお気に入りのこの店に、部下の女性主任を連れて、土曜のランチに来ていた。彼女とは会社の忘年会でたまたま隣の席になって話が弾み、1月の誕生日にランチをごちそうする約束をしていたのだった。

 この主任には彼氏がいない。寂しいバースディをほんの少しサポートしてやるつもりで、博之には下心などなかった。妻にも今日、この女性と食事に行くことを正直に話して来ていたのだが、彼女の方はというと少し違う。やり手の次長と二人だけで、ホテルで食事。そのシチュエーションに何も思わないはずはない。相手が40過ぎでも、もしもの時のために一応準備はしてきた。でも、心の準備はまだだった。
 しかし、博之はそんなことはまったく考えず、この店に来たのには、もう一つ目的があったからだ。

 フロアーに入ると、小柄で童顔のウェイターが笑顔で二人を案内したが、博之はこのウェイターとは初対面だった。その彼がいつも座る窓際を通り過ぎたので、
「この席がいいんだけど」
とウェイターを呼び止めた。すると、少し戸惑った様子で、
「申し訳ございません。表示はしてなかったのですが、ご予約をいただいているお客様がいらっしゃいますので・・・」

 この時、博之はこの男性の話をあまり気にしてはおらず、店の奥から早足に近寄ってくるウェイトレスに、微笑みかけていた。そのウェイトレスは、博之のところに来るとウェイターに対し、
「ごめん、この席でいいのよ」
と言って、一緒にいる女性のために椅子を引くと、ウェイターも博之の椅子を慌てて引いた。

「いらっしゃいませ。今日は若い人と来たのね。パパ」